研究課題/領域番号 |
19K12465
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
伊達 浩憲 龍谷大学, 経済学部, 教授 (30278501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 潜在能力アプローチ / 生態系サービス / 生態系サービスを享受する能力 / 東日本大震災 / 岩手県 / 滋賀県 / 京都府 |
研究実績の概要 |
2021年度の前半期は、コミュニティの自然資本・生態系サービス(ソシオ・エコロジカルな環境条件)と、それを利用・享受するために必要な企業家の能力に関するケーススタディや実証的な分析に取り組んだ。 「コミュニティのソシオ・エコロジカルな環境条件が育んだ産業」として、幕末・明治期の京都の水車伸銅業を事例にとりあげ、琵琶湖疏水・鴨川運河の開削と蹴上発電所の設置という「電化」時代のソシオ・エコロジカルな環境条件の変化(自然環境の人為的改変)に対して京都の伸銅企業家たちがどのように主体的に「適応」したのかについて、農商務省「工場通覧」「工場統計」等の統計資料や各種文献史料を用いて、歴史的な分析を行った。 分析の結果、(1)明治期の京都の伸銅業は、ソシオ・エコロジカルな環境条件の変化に対して、工場立地や動力の変更(電動機の設置、日本型水車からタービン水車への変更)などを実施し「適応」をはかっていたこと、(2)京都の伸銅業が、1890年代以降、琵琶湖疏水・蹴上発電所の電力や鴨川運河の水力をいち早く利用し工場の立地や動力を変更することによって発展をとげた産業であることがわかった。研究の成果を論文にとりまとめ、学内紀要に掲載した。 後半期は、(1)投資を実行する企業家の決意や能力の形成を促す「誘引機構」や「前方・後方連関効果」などの概念(A.ハーシュマン)を理論的に検討するとともに、(2) 江戸後期に源流をもつ京都の老舗ファミリー企業で伸銅・電線を製造するK社のケーススタディに取り組んだ。同社は、鴨川支流域上流に水車を設置し、河川の落差・水流という自然の生態系サービスを工場動力に変換し伸銅を行っていたが、1890年代以降、工場の立地や動力を変更して鴨川運河の水力を利用し、電線という銅線の新しい用途を開拓し発展をとげた企業であることがわかった。研究の成果を論文にとりまとめ、学内紀要に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
岩手県・滋賀県において予定していた実地調査や、生態系サービス享受能力に関するヒアリング調査およびアンケート調査は、一昨年度に引き続き、新型コロナ感染拡大、政府の緊急事態宣言の発出、調査対象および所属機関のガイドライン等の影響により、実施できなかった。オンラインでのヒアリング調査や郵送でのアンケート調査の実施も模索したが、先方の事情を配慮し、本研究の調査対象が高齢者や小・中学生であるため、実施は極めて困難であったため、取りやめた。
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今後の研究の推進方策 |
潜在能力アプローチのメリットは、「福祉(well-being)的自由や達成」だけではなく「行為主体性(agency)としての自由や達成」をも包含し、反実仮想的推論(理由の多重性)にもとづく「良き生の質」を問うことができることにある。そのメリットを活かして、生態系サービスの享受プロセスや享受能力の減退・回復に関する理論的フレームワークを深化させ、臨床的展開や調査設計につなげていきたいと考えている。 2022年度の夏休みの前後を利用して、岩手県・滋賀県において、実地調査や、生態系サービス享受能力に関するヒアリング調査およびアンケート調査を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
岩手県・滋賀県において予定していた実地調査や、生態系サービス享受能力に関するヒアリ ング調査およびアンケート調査は、一昨年度に引き続き、新型コロナ感染拡大、政府の緊急事態宣言の発出、調査対象および所属機関のガイドライン等の影響により、実施できなかった。オンラインでのヒアリング調査や郵送でのアンケート調査の実施も模索したが、本研究の調査対象が高齢者や小・中学生であるため、先方の事情にも配慮し、実施は極めて困難であったため、取りやめた。 本年度は、夏休みの前後を利用して、岩手県・滋賀県での調査を実施する予定である。もし、先方の事情により、アンケート調査が困難になった場合には、限定的なヒアリング調査のみ実施することとしたい。
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