研究課題/領域番号 |
19K12466
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
山口 臨太郎 国立研究開発法人国立環境研究所, 社会環境システム研究センター, 主任研究員 (30557179)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 包括的富 / ジェニュイン・セイビング / 持続可能な発展 / グリーンGDP / 割引率 / 収益率 / 自然資本 |
研究実績の概要 |
人工資本・人的資本・自然資本を重みづけしたうえで集計した包括的富(IW)は、現在世代から将来世代の福祉の源泉となる。そのため、IWの変化は持続可能性指標の一つとして注目されている。本研究では、IWのマクロ経済学的位置づけとして、1.GDPとIWとの関係、2.IWと福祉の関係、3.割引率とIWの関係、4.制度の質とIWとの関係、5.IWの道徳哲学的位置づけのそれぞれを検討する。 本年度は、課題の二点目を中心に取り組んだ。すなわち、IWの増加がその後の福祉の改善に結び付くかという問いを、理論とデータによる実証を通じて検証した。 まず理論的には、IWが増加していればその後の消費も増加することを示したハートウィック・ルールの拡張を行った。社会厚生を人口や自然資本も含めて幅広く定義すると、IWと消費とが一対一対応しなくなってしまう。そこで最適経済を想定したうえで、この二点を含めてルールを拡張した。 次に、世界銀行や国連環境計画が公表するグローバルデータを用いて、1990~2010年のIWの増加が、その後数年の消費増加に結び付いているかどうかを検証した。その結果、人口と森林アメニティ価値を導入すると、消費増加の予測が変わる国が多いことが示された。さらに最小二乗法による回帰では、森林アメニティの変化を考慮することで、消費増加の説明力が上がる可能性もあることを確認した。ただし、IWの増加そのものの説明力はあまりなかったため、引き続き検討が必要である。 また課題の四点目について、制度の質が自然資本に与える影響を対象に、理論の構築とデータによる実証を行い、途上国における制度の質が再生不能資源の変化に有意に影響すること等を確認した。また制度の質をシャドー価格に反映する理論的枠組みを論文化し公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
5つの課題のうち、第2と第4の課題については順調に進捗したものの、新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、新たな研究課題が浮上し、優先的に取り組んでいる。そのため、第1、3の課題への対応が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
IWのマクロ経済学的位置づけとして、1.GDPとIWとの関係、2.IWと福祉の関係、3.割引率とIWの関係、4.制度の質とIWとの関係、5.IWの道徳哲学的位置づけ、のうち、既に着手している2.と4.の分析を、学会等で得られたコメントを元に精緻化することを中心に進める。 2.については、理論的には社会厚生関数の定義によってIWと福祉との関係が異なることを論理的に説明できるようにし、データによる実証においては、より良い計量経済モデルがないかを引き続き検討する。 3.については、理論分析に着手し、割引率が各資本に与える異なる影響を明示化する。 4.については、より当てはまりの良い計量経済モデルがないかを検討しつつ、論文化を行う。 1.および5.については、新型コロナウイルス感染症対策の分析を優先させる必要があるため、余力に応じて着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の統計ソフトにより効率的に分析を行うことができたため。また、他の予算において出席した学会において、合わせて報告を行うことで、旅費等の節減を行うことができたため。
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