富と福祉との関係について、富の変化と消費の変化の関係を表す「一般化ハートウィック・ルール」において人口や環境アメニティを考慮した昨年度までの理論分析を精緻化した。具体的には、1人当たり消費を持続させるのに必要な「1人当たり投資」と「1人当たり富の増減」それぞれの指標が、現在だけではなく将来すべての人口予測に影響を受けるという2つの命題にまとめた。
この理論命題に合わせて、昨年度までの実証分析を改善した。主要20カ国のうち、将来の人口増加が予測され、かつ消費・賃金ギャップが相対的に大きい国では、近年の実際の1人当たり投資が、1人当たり消費の持続に必要な水準を下回っていることを示した。1人当たりの世代間福祉を持続させる基準(ジェニュイン・セイビング)に照らすと、貧困国で投資が不足していることはこれまでも知られていたが、1人当たりの消費を持続させる基準では、割引率が低い場合、一部の先進国でも投資が不足することを確認した。以上の理論・実証分析を論文として完成させ、国際誌に投稿した。
また、国境を越えて資源(自然資本)が移動する場合、将来の資源の流出入が現在の持続可能性(ジェニュイン・セイビング)に影響を与えることを示した論文を国際誌にて公刊した。自然資本・富会計がより正しく持続可能性を表すには、「いま存在する資本の価値」だけではなく、将来的に越境すると予想される自然資本や汚染を含めたものに改良することが望まれる。加えて、富に基づいた新型コロナウイルス感染症のソーシャルディスタンシング政策の費用便益分析についての論文を改稿した。ウェブアンケートによる割引率調査も実施した。
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