研究課題/領域番号 |
19K12472
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
南 裕子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (40377057)
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研究分担者 |
閻 美芳 宇都宮大学, 雑草と里山の科学教育研究センター, 講師 (40754213)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市化 / 都市農村越境コミュニティ / 都市・農村結合部 / 農家民宿 |
研究実績の概要 |
日本国内での研究会、中国での現地調査・専門家へのヒアリング、文献調査を行った。また、国際シンポジウム(中国・哈爾浜工程大学)での報告を行った。 令和元年9月の中国現地調査では、本研究が対象とする「都市農村越境コミュニティ」(都市化の影響で混住化が進む農村あるいは元農村のコミュニティ)の3類型うち2つの類型の地域を訪問した。1つは、都市・農村結合部と呼ばれる市街地周辺部のコミュニティである(北京市昌平区回龍観街道)。村の集団財産の運用益により、村独自の「都市化」を進めていた。都市の社会保障制度への転換や集合住宅化のプロセス、90年代半ばから村で不動産開発した住宅物件の権利問題、外来住民増加に伴うガバナンス問題などについて、ヒアリングを行った。また、同じく昌平区の都市・農村結合部にある「城中村」と呼ばれる出稼ぎ労働者居住地区を踏査した。もう1つは、ツーリズム経営者が流入する北京市郊外の2つの山村である。5、6年前より断続的に調査を行っているが、農家民宿の2極分化の傾向が顕著になっていることが確認できた。これら2類型の調査から、「都市農村越境コミュニティ」をとりまく都市農村の連関構造(都市中心部がより高度な都市機能を追求する中で、周辺に排除される人々(階層、産業)が出現し、それを都市・農村結合部やより郊外の農村が受け止める)を実態に即して把握できた。 現地調査と併せて、北京大学社会学系、中国社会科学院社会学研究所の研究者も訪問した。都市・農村結合部の土地問題、地理的にだけでなく社会的にも経済的にも都市周辺部に存在する外来人口の社会統合問題等をめぐり、議論した。 国内の研究会は、研究代表者と分担者により2回実施した。令和元年6月には、現地調査の準備状況の確認、調査項目の検討を行った。令和2年2月には、令和元年度の研究総括と今後の研究課題、研究計画を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の現地調査でメインの調査地として予定していたのは、都市・農村結合部のコミュニティ改造の実験を行った地域であった。しかし、我々の訪中直前に、村内の人事上の問題により、調査受け入れ不可能になってしまった。現地の研究協力者の尽力で、急遽別の地域での調査、視察が可能になった。このため限られた時間ではあったが、今後の研究の展開にとって示唆的な情報を多く得ることができた。 また、ツーリズムを行っている調査村のうちの1つ(北京市懐柔区)も、建国70周年の国家行事の影響により、外国人の宿泊受け入れが禁止されたため、日帰りでの調査になってしまった。しかし、これまでの調査でキーパーソンであった方が、今回は村の役職に就いていたこともあり、深くまた多方面にわたる聞き取りをすることができた。 本研究の中軸をなす現地調査は、上記のように、当初の予定通りには実施できなかった。しかし、限られた条件の中で、本研究の新たな分析視点や理論化の課題を発見することができ、研究を進展させることができた。このため、区分(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、現地調査、文献研究、研究会活動により、本研究を推進する。 今後の研究課題は、令和元年度の研究総括から以下の3点が中心となる。 (1)「都市農村越境コミュニティ」をとりまく都市農村の連関構造の実態的把握ができたことを踏まえ、次に、その中での人々の生存戦略とコミュニティの関係という観点から、この構造をとらえ返すこと。 (2)混住化に対応したコミュニティの変容の方向性。令和元年の事例地域では、自らのあり方を「一村両制」と称していたように、共生よりも新旧住民の分離による「ウチとソト」の村の論理の存続が確認できた。コミュニティ内部の問題も、市政府の苦情窓口へ持ち込まれ、外部からの介入で対処されていた。こうした点について、他地域の事例との比較を進める。「都市農村越境コミュニティ」の3類型のうち、令和元年度に調査を実施していない類型の地域(=都市計画により、都市的環境の整備された団地への移転)を対象とする。江蘇省太倉市の中心市街地周辺部の調査を予定している。 (3)都市からの経営者が持ち込む洗練されたツーリズムビジネスが、地元農家の従来の観光業を淘汰する可能がうかがわれたことについて、ルーラルジェントリフィケーションの枠組みからの検討も可能と考えられる。この問題について、新たな調査地も加えて、さらに研究を進める。浙江省湖州市を調査候補地とし、同地をフィールドとしている中国の研究者との研究会開催も計画する。 しかしながら、現在、新型コロナウイルスによる感染症拡大の影響で、中国への渡航滞在がいつ可能になるのかもわからない状況にある。このことは、本研究の遂行に多大な影響をもたらすことになる。状況によっては、国内研究会の開催の充実のほか、中国の研究者とのオンライン研究会の開催も考慮して、研究を推進する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定してた調査地での調査が不可能になったことで、現地滞在日数、車両借り上げ費用、調査謝金の執行が予算より少なくなっため。この費用は、令和2年度の調査費用に充てる。
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