研究課題/領域番号 |
19K12472
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
南 裕子 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (40377057)
|
研究分担者 |
閻 美芳 早稲田大学, 人間科学学術院, その他(招聘研究員) (40754213)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 都市農村越境コミュニティ / 地域支援型農業 / 田園回帰 |
研究実績の概要 |
令和3年度もコロナウイルスによる感染症拡大のため中国への渡航がかなわず、当初予定していた中国での現地調査、ワークショップの実施が不可能であった。このため、文献研究、オンライン調査への変更を余儀なくされた。 令和3年度に得られた主たる研究成果は以下の2点である。(1)「都市農村越境コミュニティ」に流入する都市民の動向の把握。(2)「都市農村越境コミュニティ」に関する日中比較研究への展開。 (1)の「都市農村越境コミュニティ」に流入する都市民とは、農業や農村部の自然環境とかかわる生活を志向し、さらにそれを起業につなげようとする都市民、あるいは農村振興を目的とするNPOなどを研究対象とするものであった。令和3年度は、中国のCSA(Community Supported Agriculture、地域支援型農業)をとりあげ、高学歴の若者がリーダーとして農村に入り、農業生産や流通にかかわる活動を行う現象について、その実態と背景の分析を進めた。雑誌やインターネットの記事、論文による現状整理のほか、自ら農場経営を行い、さらに中国各地のCSA事業者をネットワーク化した中心的人物に対してZOOMによるオンラインインタビュー調査も実施した。以上の作業を通じて、今後の現地調査に向けての仮説を絞り込んだ。 (2)は、コロナ禍により、中国への渡航制限が長引くことを想定して、「都市農村越境コミュニティ」の日中比較への展開の試みであった。日本の「田園回帰」や「交流人口」論について、今日までの歴史的な展開を整理し、中国で「逆都市化」と呼ばれる現象との比較研究のための論点整理を行った。現在、中国においては、まだ点として存在する都市から農村への越境の動きをいかに評価するのか、特に、全体社会におけるその意義をいかに議論するのかが、今後に向けた重要な課題となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題の遂行にあたっては、中国での現地調査、それを踏まえた現地研究者との研究会開催が欠かせない。しかしコロナ禍にあって、令和2年度に続き、令和3年度も中国へ渡航することはかなわなかった。 文献研究に加えてオンラインでのインタビュー調査も行うことで、一定の情報を得て、当事者と意見交換を行うこともできた。しかし、本研究の課題として最も重要な、「都市農村越境コミュニティ」形成に伴う地域社会の変容の把握には、オンライン調査では限界がある。以上の理由から、上記の評価区分を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度後半には、中国への渡航が可能になるという想定の下で、当初の計画通り、現地調査、文献研究、国内外での研究会活動により、以下の研究課題をめぐって本研究を推進する。 (1)現地調査:①本研究で設定した「都市農村越境コミュニティ」の類型のうち、都市計画によって都市的環境の整備された団地へ集団移住するパターンの地域に対する本格的な調査は、未着手である。これを進め、令和元年度の調査で得られた知見・論点との比較を行う。江蘇省太倉市の中心市街地周辺部の調査を予定している。②農村ツーリズムを展開している地域では、都市から流入した経営者による洗練されたツーリズムビジネスが、地元農家による従来の農家民宿経営を淘汰する可能性も見られた(令和元年度調査)。こうしたパターンによる「都市農村越境コミュニティ」の形成については、ルーラルジェントリフィケーション論の枠組みからの検討も可能であり、新たな調査地も加えて研究を深める。浙江省湖州市を調査候補地とする。 (2)文献研究(中国への渡航が不可能な期間が長引くことも念頭に以下の研究を進める):①都市農村越境コミュニティの形成の一翼を担う都市民に関する実態把握と分析を継続する。令和4年度は、地域振興支援に従事する個人、NPO等の活動に焦点を当てる。②令和3年度に着手した日中比較研究の継続。中国ではその規模や面的展開から見て、主流となっているとはまだ言えない都市から農村への越境の動きを、全体社会の中でどのように位置付けるのかを中心に検討を行う。 (3)国際ワークショップ:最終年度として、研究総括の国際ワークショップを開催する(開催予定地:一橋大学)。中国から研究者を招聘するほか、日本国内の関連するテーマの研究者にも報告、コメンテータとしての参加を求める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、中国での現地調査、それを踏まえた現地研究者との研究会開催が不可欠で、また、令和3年度は、中国からの研究者を日本に招聘して、研究総括の国際ワークショップも予定していた。このため、旅費・謝金に多くの予算を計上していた。しかし、コロナウイルスによる感染症拡大のため、結果的に、中国での現地調査、現地研究会開催、国際ワークショップ開催が不可能となり、次年度使用額が生じることとなった。 この費用は、令和4年度の中国現地調査、現地研究会、国際ワークショップ開催、研究協力謝金、インタビュー調査音声データの文字化(テープおこし)、論文翻訳(英文・中文)のための経費に充てる。
|