令和5年度は、中国での現地調査を再開することができ、また文献研究、国際研究会の開催により、最終年度として研究の総括を行った。 中国現地調査は、①都市農村接合部農村における地域再編成プロセス、②大都市近郊でツーリズムを展開する村の追跡調査、③都市から農村に入り、CSA(地域支援型農業)や環境教育を実践する団体の調査を行った。さらに、令和4年度から「越境コミュニティ論」の射程を拡大させるべく開始した日本国内調査も継続し、令和5年度は、中国人住民が集住する団地調査の再調査のほかに、中国人が経営する観光農場の調査も行った。 調査を実施した中国内の「越境コミュニティ」は、その形成パターンは異なるが、いずれも地域内に多様な、時には異質な主体が存在している。その際に、これら諸主体の融合による新たな地域社会の創発という方向性は見出し難かった。むしろ、最低限のかかわりでそれらを共存させる、「器としての地域社会」とも呼ぶべき特性が浮かびあがった。 中国本土と日本を跨ぐ人びとの「越境コミュニティ」については、実体とバーチャルが輻輳しており、その領域の広さと深さに注目すべきことが明らかになった。いわゆるガチ中華など我々の目に見え話題になるものはその一部に過ぎず、越境中国人社会は、その人びとの生活、ビジネスの多領域において、日本の社会や経済制度に深く入り込むのと同時に、中国語によるオンライン、オフラインでの独自の産業、エコシステムを形成している。ホスト社会にはその断片しか見えない「越境コミュニティ」の存在の解明が、今後の研究課題になる。 最終年度としての研究総括の国際研究会は、龍谷大学で開催し、中国から3名の研究者を招聘したほか、日本国内の関連するテーマの研究者の報告を得た。様々な事例報告を踏まえ、分析概念としての「越境コミュニティ」の有効性について議論を深めることができた。
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