本研究は、自給的な生業を営んできたラオス北部の農村に、隣国ともつながる道路が到達してグローバル化の影響が直接的に及ぶようになった結果、地域住民はどのように生業戦略を変化させ、暮らしを安定化させているのかを明らかにすることを目的としている。これまで生業の安定化には生業活動の多様化を伴うことが示唆されており、それらが主に2つの多様化、すなわち追いやられた多様化(distress diversification、多くの低収入の活動に従事せざるを得ず経済状態が悪化するような多様化)と前進的な多様化(progressive diversification、経済状態が向上する際住民がリスク分散を行いながら多くの新しい経済活動を導入するような多様化)として理解できることが先行研究によって示されてきた。一方本研究対象地では、これまで「追いやられた多様化」における典型的な活動とされてきた林産物採取がむしろ村落の経済状態の向上に寄与していることが明らかとなった。またその際、グローバルな背景からの多様な要求に応えられる多様な森林資源の存在の重要性が明確になった。資源が枯渇しないような自発的な資源保護の方策も講じられており多様性を持続的に利用する仕組みも存在した。また研究成果の一般化を目指し生業の多様化に関するレビューを実施し発表したがこの過程で先行研究の多くが生業活動の単位が単純化されすぎており生業の多様化の実態を追跡できていない可能性があった。生業活動の適切な単位に関する理論的背景の構築を目指し議論を重ね一部発表を行ったが、依然として情報の統合が不足しておりこれは今後の課題である。
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