研究課題/領域番号 |
19K12476
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (90625302)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有用植物 / アロマオイル / 商業利用 / 伝統利用 / 持続性 / 保全 |
研究実績の概要 |
1.研究体制の整備:2019年度前期は、共同研究者のアンタナナリヴ大学理学部の共同研究者らと連絡を取り合い、2019年8月に同大学および京都大学間の学術交流協定を締結した。これによって、調査地や現地の共同研究施設における研究活動に対する許可をスムーズに取得できるようになった。同協定によってマダガスカル応用化学研究所(IMRA)と共同研究を開始するため、本課題の対象植物Cinnamosma fragransの精油抽出やその化学成分の分析手法について協議を進めた。
2.森林調査:2019年11-12月にマダガスカルに渡航し、C. fragransの最大の生育地である同国北西部アンカラファンツィカ国立公園において、人為かく乱の少ない状況での生育状況を確認するために植生調査を行った。3haの森林プロット内の胸高直径5cm以上の木本植物8425個体の各種の出現頻度を評価したところ、マメ科やアカネ科の植物が優占する中でC. fragransは出現頻度20位に位置する高密度で生育していることが分かった。実生や若木の頻度も高いことから、個体群更新が健全に進んでいることが示された。
3.精油に関する調査:C. fragransの精油抽出を行っているアンカラファンツィカ国立公園外縁の村Aおよび同地方の州都マジャンガに近い海岸沿いの村Bを訪問し、精油抽出作業を観察した。どちらも野生個体群の葉を大量に採集して欧州の化粧品企業が設置したアランビック蒸留器を用いて精油を抽出していた。葉に含まれる精油の含有率と精油生産量を考えると、非持続的な資源利用であると推定される。村Bでは将来の資源確保のために実生を育てて植林する活動も行っていた。葉とその精油の化学成分を京都大学霊長類研究所およびIMRAで分析した。一般的な葉に比べてC. fragransの葉は脂肪分が多いがその化学成分には大きな地域変異が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.共同研究体制の状況:旧来の共同研究者であるアンタナナリヴ大学理学部のRakotomanana教授およびRazafiarison准教授らだけでなく、マダガスカル応用化学研究所(IMRA)のRakotondragaby博士との共同研究体制を確立し、マダガスカル国内でのガスクロマトグラフィーによる精油の化学成分分析をおこなえるようになったことは大きな進展である。さらにIMRAと関りのある精油抽出業者と知り合い、精油の生産地での調査を行うこともできた。この体制により、さらに多くの生産地での調査が可能となるだろう。
2.精油商業の構造把握の状況:精油抽出業者に対する聞き取り調査や村A・村Bでの精油生産現場での調査から、この商業の根底には欧州市場における精油の品質に対する需要があることが分かった。それに応えるべく、生産現場では精油の色や香り、さらにはそれに影響する産地を強く意識していることが明らかになった。化学成分の地域変異は化学成分分析からも示されており、この商業がどの地域個体群に影響を与えうるかを説明する大きな要因になる。さらに、特定の地域個体群の実生を栽培し始める動きなど、今後の資源確保につながる活動の動機にも大きく関わっている。この点を考慮しながら研究課題と計画を再考し、さらに精油生産から流通にいたるまでの商業の構造把握に努め、本研究成果をよりユニークにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.野外調査の実施:新型コロナウィルス感染症が縮小した後に、できるだけ早くに マダガスカルに渡航する。まだ調査をしていない精油生産地を数か所訪れ(現時点で2か所を具体的に計画している)、葉の採集から精油抽出に至る過程を観察し、現地の森林生態系に与える影響を評価する。外資系企業による支援など、国際市場との関わりについても調べる。原生林が残存するアンカラファンツィカ国立公園の村や、各地の精油産地の現地住民による伝統的な植物利用を観察し、C. fragransの利用の商業化が伝統的利用に与える影響を把握する。
2.精油化学成分の地域変異の検証:アンタナナリヴ大学との学術交流協定を活用して現地の学生を受け入れ、より多くの地域個体群からの葉を摂取し、Rakotondragaby博士と共にIMRAで精油の化学成分分析を行う。生育地の土壌も同時に採取し、マダガスカル国内の研究機関で土壌分析を行って、精油成分に影響を与える土壌の影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当方の所属部局では京都大学研究大学強化促進事業・融合チーム研究プログラムSPIRITS「アフリカ原産有用植物の生息地保全と在来知に基づいたワイズユース」を2018年度から2019年度に実施しており、この研究助成も使用してマダガスカルに渡航したために、当初予定していたよりも旅費の支出が少なくなった。 次年度使用額は、現地の研究協力者と実施する予定である広域調査に係る旅費と調査に必要な物品購入で使用する予定である。
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