研究課題/領域番号 |
19K12476
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (90625302)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有用植物 / アロマオイル / 商業利用 / 伝統利用 / 持続性 / 保全 |
研究実績の概要 |
2020年度は日本およびマダガスカルにおける新型コロナウイルス感染拡大に伴い、佐藤のマダガスカル渡航および現地の共同研究者による野外調査が実施できなかった。そのため、現在までに得られたデータの解析およびオンライン会議による研究ネットワーク強化を中心とする活動を実施した。アンタナナリヴ大学の共同研究者らと連絡をとりながら、C. fragransの最大の生育地である同国北西部アンカラファンツィカ国立公園において15 haの森林調査区画内の毎木調査を2020年7月まで継続することができた。記録された胸高直径5 cm以上の木本約150種4万本のうち、C. fragransの個体は出現頻度34位(15.1個体 / ha)に位置することがわかった。この森林調査データと現地住民への有用植物利用に関するインタビュー結果、有用植物データベースを統合し、一次林の有用樹木資源の保有量を評価した。全体で48種67.1%の個体が何らかの有用性を示しており、C. fragransのほかに国際取引の対象となっているCedrelopsis grevei(精油・木材)やDalbergia greveana(高級木材)などの有用樹種の生育を確認した。これらの樹種も本研究が課題としているグローバな商業化がもたらす伝統的な利用体系と野生個体群への影響が懸念される。また、マダガスカルの精油産業にかかわる日本企業およびそれを支援するJICAマダガスカル事務局とオンライン会議を行った。マダガスカルでは多くの精油業者が天然林由来の薪炭材を燃料として使用しており、精油原料の過剰採集だけでなく薪炭材収集のための森林破壊が懸念される。日本企業は農業廃棄物から燃料を作る技術を導入し、環境に配慮した精油産業の確立を目指している。この技術普及によって環境に対する影響が軽減されるため、今後の共同研究等の連携について協議を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度当初の目標だった精油生産から流通にいたるまでの商業構造や伝統的利用、C. fragransの野生個体群に与える影響などの評価は、現地調査に制限がかかり、実施できなかったために大きな遅れが生じている。現在、日本ではコロナ禍第4波、マダガスカルでは第2波の只中であり、アンタナナリヴ大学およびマダガスカル応用化学研究所内の本事業に協力する部署は閉鎖もしくは活動を停止している。ただし、研究協力者とは頻繁に連絡を取り合い、安全を確保したうえでの現地調査再開の機会を探っている。 こうした状況の中、アンカラファンツィカ国立公園の15 ha森林調査区画における樹木個体のデータが利用可能であるため、これと現地住民の有用植物に関する知識を組み合わせて、一次林における有用植物資源量を評価することに計画を転換した。森林全体が多様かつ豊富な有用植物資源を保有していることを示す重要な結果が得られており、投稿論文を執筆しはじめている。これによってグローバルな商業化の影響を受けていないC. fragrans個体群の状況も明らかになる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が終息した後、ただちにマダガスカルに渡航して調査を行う。一方、海外渡航が不可能な場合は、可能な範囲で現地研究者を調査地へ派遣し、代理で調査を実施してもらう。コロナ感染リスクが高い都市部や室内での調査エフォートを下げ、原生林が残存するアンカラファンツィカ国立公園の村や、各地の精油産地の現地住民による伝統的な植物利用を観察し、C. fragransの利用の商業化が伝統的利用に与える影響を評価する調査などに重点を置く。 また、2020年度の活動で進めることができた一次林における有用植物資源量に関する研究成果を論文にまとめ、国際学術雑誌への投稿を目指す。樹種の同定および現地住民による有用植物の知識体系の把握については、追加調査が必要であり、現地研究者の協力を得て、不足しているデータを補完していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外渡航および現地調査が行えなかったため、次年度への繰越金が生じた。2021年度は佐藤自身および複数の現地共同研究者の調査地への派遣や、現地調査に必要な物品購入などに使用する予定である。
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