研究課題/領域番号 |
19K12476
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (90625302)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有用植物 / アロマオイル / 商業利用 / 伝統利用 / 持続性 / 保全 |
研究実績の概要 |
2021年度も日本およびマダガスカルにおける新型コロナウイルス感染拡大に伴い、佐藤のマダガスカル渡航が実施できなかった。そのため、アンタナナリヴ大学の共同研究者をアンカラファンツィカ国立公園に招へいし、森林資源を利用している2ヵ村の住民を対象に有用植物資源に関する知識について聞き取り調査を行った。この調査結果と2020年度までに毎木調査を終了している一次林15haの調査区画内の各樹種の現存量データを統合させて、同地域の一次林が保有する有用植物の資源量を推定した。 15ha調査区画内には55科160種39,683本の木本植物の幹が識別されているが、そのうちの130種、93%の幹が有用植物だった。有用植物の80%はマダガスカル固有種である。先行研究に従った11カテゴリの用途別に現存量を評価したところ、幹数10%以上の現存量を保有する用途は多い順に建材、道具、社会的利用、薬だった。住民に持続的な植物利用を許容している同国立公園の政策が住民の植物資源に対する知識を高く保ち、同森林を豊富な有用植物の供給源として価値を高めていると考えられる。さらに各樹種の有用性を評価したところ、本課題がアロマオイルの資源として着目しているCinnamosma fragransは農村における薬用植物として最も利用価値指数の高い植物であることが分かった。ところが、利用価値と汎用性(薬・建材・道具)の高いCedrelopsis属2種とともに現時点で保全の優先度は低い。Cinnamosma fragransとCedrelopsis greveiは都市部における精油資源としてのグローバルな商業化が進んでおり、保護区外では搾取的な資源消費が問題となっている。同国立公園はこれらの樹種資源および伝統的な利用を保全する役割を担っていることが明らかになったが、近年の精油産業の興隆に対応する保全策の強化の必要性も確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目標だった精油生産から流通にいたるまでの商業構造やC. fragransの野生個体群に与える影響などの評価は、現地調査に制限がかかり、実施できていない。アンタナナリヴ大学およびマダガスカル応用化学研究所内の本事業に協力する部署は閉鎖もしくは活動停止が断続的に続いていることも当初の計画を変更する要因となっている。こうした状況の中でアンカラファンツィカ国立公園の15 ha森林調査区画における樹木個体のデータと現地住民の有用植物に関する知識を組み合わせて、一次林における有用植物資源量を評価することに計画を転換した。2021年度は現地住民の知識体系に関する調査が進んだことで、国立公園が伝統的な植物利用を保全する機能も担っていることが明らかになったことは意義深い。これらの成果は各種学会での報告および投稿論文として発信する準備に入っている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は渡航を再開し、現地の共同研究者らと共に商業用の精油として有用植物を利用している現場での調査を試みる。また、アンカラファンツィカ国立公園内の村における伝統的な植物利用に関する調査は継続し、国際学術雑誌での成果公表をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外渡航および現地調査が行えなかったため、次年度への繰越金が生じた。2022年度は佐藤自身および複数の現地共同研究者の調査地への派遣や、現地調査に必要な物品購入などに使用する予定である。
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