マダガスカル北西部に残存する熱帯乾燥林を保護するアンカラファンツィカ国立公園において伝統的な植物利用を評価すべく、2022年度は昨年度に開始した地域住民に対するインタビュー調査を継続した。合計3か村、20名の住民を対象に植物の利用法などを聞き取った。原生林に設置した15haの毎木調査区画の植物データベースに登録されている約160種4万本の幹のうち、植物種の80%以上、幹数にして90%以上が有用植物として認識された。建材、道具、薬、社会サービスの順に利用種数が多く、幹数が多い樹種が建材や道具として利用されていた。これらの利用法は森で木を切り倒して村に運ぶため、重労働を行う成人男性に知識が偏る傾向があった。一方の薬としての利用は伝統医が、社会サービスとしての利用は呪術や祈祷を司る祈祷師が詳しく、特殊な効力を求めるがゆえに、森林内での現存量が少ない樹種も利用される。 都市部や国際市場でアロマオイルとしての消費が伸びているCinnamosma fragransは国立公園の村落においても薬用植物として最も利用価値指数の高い植物であった。住民は再生可能な葉を病気の時にだけ採集するため、持続的に利用されていた。アロマオイルとなるもう1種のCedrelopsis greveiは地域住民にとっては建材としても薬としても有用で、木を切り倒して利用する。そのため、住民による利用が許可されている森林では個体数が減っており、持続的な資源管理を必要とする状況にあった。一方で国立公園内では森林産物の商業利用が禁じられているために、アロマオイルの原料としての大量搾取は認められなかった。公園内の有用植物資源を脅威に晒しているのは、近年に頻発する森林火災であり、住民が利用する森林が焼失する深刻な状況が確認された。今後は、住民にとって利用価値の高い森林を主体的に保護管理する方法を模索する必要がある。
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