本研究課題の核心をなす学術的「問い」は、「脱生業化により牧畜社会がグローバルな市場経済に組み込まれた現状において、牧畜社会の生業性と産業性はどこで均衡しうるのか?」であり、当初計画では研究代表者・研究分担者および内モンゴルに拠点を有する研究協力者の計3名が2019~2021年度の3年間で実施し、脱生業化に伴って商品化が進んでいる生業生産物のうち食(馬乳・ラクダ乳製品)、住(ゲル・畜糞)を対象として、内モンゴルとモンゴル国の比較研究を実施する予定であった。初年度はおおむね計画通りの実施が可能であったが、COVID-19パンデミックの影響を受け、研究の主力を文献研究を通じた、モンゴル国および内モンゴルにおける過去100年程度の生業と産業の均衡点の変動プロセスの復元に絞った。本年度は最終年度として研究成果発表に注力し、研究代表者は『沙漠研究』誌上に2本の論文が掲載され(うち1本は2023年6月に出版予定)、研究分担者はJournal of Contemporary East Asia Studies誌上に論文が掲載された。また2022年夏以降、モンゴル国に関してはCOVID-19パンデミック後の牧畜社会の現状について現地調査が可能になったことから、研究代表者はモンゴル国北部の郊外型草原(都市部に近い草原)で現地調査を実施し、調査速報として2023年2月に行われた国際会議The 6th Oxford Interdisciplinary Desert Conferenceにおいて口頭発表Post COVID-19 pastoral society as a resilience from social disasterを行った。
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