研究課題/領域番号 |
19K12482
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
下野 寿子 北九州市立大学, 外国語学部, 教授 (40294607)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 屏東県 / 潘孟安 / 対中輸出 / 農産物貿易 / 檸檬 / 曹啓鴻 / 台湾 / 恵台政策 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染拡大により、当初計画していた現地調査や県外研究機関での文献調査は実施できなかった。代替措置として、台湾の国家図書館やオンライン書店で文献を入手したり、公的機関がウェブ上で公開している資料を用いたりして研究を進めた。国家図書館データベースで関連する学位論文の所蔵が確認されても、電子化されていないものは入手できなかった。このような未確認資料があるため、成果物は研究ノートとして発表することにした。 「屏東県の民進党籍県長が推進した対中果物輸出に関する考察」では、屏東県政府の視点から対中果物輸出への取り組み状況を論じた。屏東県では長期にわたり民進党籍の県長が就任している。民進党と中国共産党との対立にかかわらず、屏東県の県長は対中輸出を促進してきた。考察では、県長および県農業処関係者の農産物販売促進を目的とする海外出張の内容を整理し、①所属政党の対中姿勢にかかわらず、地方政府は農民の経済的利益のために対中輸出を促進したこと、②中国市場と台湾の生産者をつなぐ台湾企業の存在が台湾の対中果物輸出の中で重要な役割を果たしていること、③屏東県政府は台湾の貿易商や中国企業との直接取引を行い、一方で中国市場への依存を軽減するために輸出市場の拡大を図っているが、これが蔡英文政権の方針と合致していることを指摘した。 また、「台湾の対中果物輸出に関する国内議論の考察」では、対中果物輸出に関する台湾国内の議論の整理を試みた。資料の入手が困難であったため、これも研究ノートとした。ここでは、対中輸出によって台湾農民が中国共産党の統一戦線の影響を受けるという議論、国民党政治家が提唱した対中輸出推進の意見、そしてこれらの中間的意見(中国共産党の政治的意図を認識しながらも農民の経済的利益のためには対中輸出はやむを得ないという見解)の3つに整理し、第3番目の見解が広く共有されていたと結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で調査活動が大きく制約されると想定し、ウェブ上に公開された資料や文献を中心に研究を進める方針を年度初めにかためた。作業を進めるうちに、屏東県政府の対中檸檬輸出について、報道だけではなく、県政府が公開している資料や公文書へのアクセスが一定程度可能であることがわかった。ウェブ上で公開された県政府の資料がすべてを網羅しているかどうかは不明であるが、屏東県の場合は質量ともに充実していたため、これを用いて県政府の対中果物輸出の方針や動向を考察した。その結果、地方政府が対中果物輸出を主導する存在であったことが明らかになり、本研究の目的である「国家(台湾当局)と社会(農民や貿易商)との関係の解明」に関する有益な成果を提示することができた。また、研究ノートのひとつは査読・再修正を経て日本台湾学会報第23号への掲載が確定した。このような状況を踏まえて、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は本研究の最終年度にあたるが、引き続き、新型コロナウイルス感染拡大の影響により国内外での調査が制約されると想定している。そのため、申請時の研究計画については必要に応じて修正しながら研究を進める。 主にウェブサイトや文献資料を用いて、①屏東県以外の南部農業県市の対中果物輸出の状況と県政府の役割を確認し、概要を把握する、②屏東県政府の農産物輸出のケース・スタディについてフォローアップを行う、③台商の役割について先行研究を基に議論を深める、④生産者の視点に関する情報を収集整理する、という4つの課題に取り組み、台湾産農産物の対中輸出が生産地の社会に与えた影響を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計上していた旅費を使うことができなかったため、次年度使用額78814円が発生した。 但し、この金額は本来旅費として計上していた金額よりも低い。その理由は、現地調査ができないための代替措置として、台湾から必要な書籍を直接購入したり国内の研究機関から複写を取り寄せたこと、また、ウェブサイトから得た情報を印刷保存するためにトナーや用紙が当初計画以上に必要となったことにより、物品費に充てたためである。 2021年度も前年度と同様に、国内外から書籍購入・文献や複写の取り寄せ・ウェブサイト資料の印刷保存を行う必要があるため、2021年度分として請求した助成金とともに主に物品費として使用する。
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