研究課題/領域番号 |
19K12482
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
下野 寿子 北九州市立大学, 外国語学部, 教授 (40294607)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 屏東県 / 台湾 / 対中農産物輸出 / 潘孟安 |
研究実績の概要 |
年度初めに予定していた南部農業県市の調査は、資料と時間の制約のため屏東県についてだけ行った。対中輸出の買付・物流・販売等を担う台商の役割については、農業分野に関する台商研究は比較的少ないため、2022年度も考察を続ける。対中輸出に関する生産者の視点の抽出については、生産地政府や議員などの政策や発言等を基に部分的な実現した。 成果として、第一に、研究ノート「屏東県の民進党籍県長が推進した対中果物輸出に関する考察」(『日本台湾学会報』第23号)が公刊された。この研究の執筆作業の大半は2020年度に行っていたが、2021年度は公刊前の修正作業の一部を行った。本研究では、台湾南部有数の農業県である屏東県の公務出国報告を基に県政府が対中果物輸出を推進したこと、輸出については2代にわたる民進党籍の県長が積極的に取り組んだこと、県長の交代が農産物輸出の方針や手法に違いを生み出したことを明らかにした。本研究は、ウェブ公開資料ゆえに書かれていない情報の存在可能性を考慮しなくてはならないが、生産地から発信された情報に基づいた分析という点では学術的価値があるといえる。 第二に、研究ノートのフォローアップとして、果物生産農家が直面していた諸課題の中に対中輸出を位置づけて再考した「潘孟安の果物農家への支援―馬英九政権下の民進党立法委員時代と屏東県長就任後―」を公表した。ここでは、農業問題に熱心な地方の政治家の言動に生産者の関心が一定程度反映されているとみなし、議員の活動報告を資料として用いた。本研究では、屏東県選出の地方政治家が、立法委員時代には国民党政権に対して対中輸出拡大よりも災害補償等の具体的な生産者救済策を出すよう要求していたが、県長就任後は中国向けを含む果物輸出を推進していった状況を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究採択時には3年間で一定の結論を出す予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で情報収集手段を変更せざるを得ず、それにともなって研究手法や計画についても一定の見直しを行い、1年延長を申請した。 但し、研究手法の見直しによって新たな観点を獲得することができた。これまでは政府や政党を中心に考え、対中果物輸出は中台統一を目指す中国側の台湾政策の一環という前提で議論を進めてきた。しかし、対中果物輸出や中国市場への依存度の高さが台湾社会に与えた影響を考えるには生産者の視点を理解する必要がある。この点について、個々人へのインタビューができない状況では代替措置として台湾農業史で自由化や農産物輸出への対応を把握し、農業県の議員や地方政府の対応を通じて対中輸出への期待や関連政策への理解を深めるように努めた。また、屏東県の事例研究より、行政院農業委員会と地方政府との政策の接点や人事交流について部分的ながら情報を得ることができた。 このように有益な知見を得てきたが、当初予定よりも時間がかかっている現状を踏まえて、「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の課題のひとつは、2019年度に行った台東県での現地調査に触れながら政治経済学的観点から生産者の視点を考察することである。先行研究を中心に行って来た台商の役割の解明については、対中果物輸出への関与の状況を指摘するにとどめる。第二の課題は、政党や政府の観点と生産地の観点の違いに留意して、台湾産果物の対中輸出実施の意義と台湾社会への影響を政治経済学的観点から考察し、本研究の狙いに回答を示すことである。これらの議論においては、特定の果物が特定の市場への輸出に依存するという経済的な問題が政治問題に転じる理由と、市場多元化への軌道修正が行われた理由についても考察する。以上をもって本研究のまとめとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外旅費や台湾での書籍購入費として計上していた予算は、国内外および勤務先大学の新型コロナウイルス感染拡大防止対策により、出張を実施できなかったため執行できなかった。但し、ウェブ上でアクセスできる資料は印刷の上、保存してきたため、トナーカートリッジなど印刷に関わる費用が未執行予算の一部を相殺した。この外、台湾のWeb書店から直接取り寄せた書籍購入費および送料も予算執行に貢献した。 2022年度も台湾側の入国制限が緩和されなければ現地調査はできないため、引き続きウェブ資料等の印刷関連費用にあてる予定である。
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