研究課題/領域番号 |
19K12486
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
村嶋 英治 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (70239515)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 近代日本タイ関係 / 在タイ日本人個人文書 / 近代タイの社会構造 / 近代タイの歴史 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、近代国家移行期(本研究では主に1880-1930年代を対象期間とする)のタイ(シャム)国の社会構造(とりわけ、社会階層秩序、パトロン・クライアント関係、多民族社会的性格)の実態・実相を、従来利用されたことがない独自のソースであり、かつ他にはない詳細な情報から成る、在タイ日本人の個人文書を用いて、より具体的かつ詳細に解明することである。これによって法制面に偏った既存研究を超え、タイ社会構造の生きた実態を明らかにすることである。 本研究の新しさは、①タイの近代国家移行期に、タイ国に在留した在タイ日本人集団を、タイ社会の部外者ではなく、タイ多民族社会を構成する一つのエスニック・グループとして扱うという方法、及び②彼らがタイ社会で自ら経験した諸々の実体験を詳細に記した個人文書(書簡、日記、覚書、回想録、国内地方新聞掲載記事、小雑誌等の掲載記事など)を、初めて体系的に収集して活用すること、にある 上記の課題、及び研究方法に従い、国会図書館憲政資料室保存の個人文書を調査し、関係者へのインタビューを実施した。また、諸資料から個人文書を所蔵する子孫若しくは所蔵の可能性のある子孫への問合せを実施した。 収集した資料の一部は近刊の拙著『南北仏教の出会い:近代タイにおける日本仏教者、1888-1945』(早稲田大学アジア太平洋研究センターリサーチシリーズ第7号)において使用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既存研究においては、総じて、実際にその社会に住んで実体験した人の記録が、タイ語でもそれ以外の言語のものでも、十分に利用されてはいない。そもそも、その種の記録で残存しているもの自体が少ないと考えられてきた。そのため、移行期のタイ社会構造の実状を、その社会の中で生きた人の手になる同時代資料によって知ることは困難と考えられてきた。 ところが、この状態を打破する大きな転機が訪れた。それは、2010年から2018年まで、満8年間、96回に亘ってタイ国日本人会の月刊誌『クルンテープ』に「バンコクの日本人」(本文合計頁数は602頁に上る。早稲田大学リポジトリからダウンロード可)を連載する過程で、筆者は1880年代からタイ国に住んだ日本人たちが残した個人文書等(新聞雑誌に掲載された書簡を含む)の一部を目にしたことによってである。 タイ社会で生活した日本人は、人数的には多くはないが、知識層も多く、彼らの個人文書には、華僑資料やタイ語資料にさえ見出すことができない、タイ社会の実態を詳細かつ具体的に記述したものがあった。例えば、岩本千綱(1893-1896年在タイ)、溪道元(黄檗僧、1905年-1912年在タイ)や大三輪延弥(1900年訪タイ)、副島八十八(1899年訪タイ)などの文書である。本年度はこれらの資料を整理するとともに、更に諸資料から個人文書を所蔵する子孫若しくは所蔵する可能性のある子孫の連絡先を探し、一部の子孫には問い合わせた。しかし、2020年2-3月に予定した国内外の出張がコロナ禍のため実施不能となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、已に見当をつけた個人資料所蔵者を訪問し、インタビューする予定であったが、2020年2,3月のコロナ禍のため、国内及び国外への移動が困難となり、出張による資料収集を一時中断せざるを得なくなった。今後、コロナ禍の軽減により移動が可能になれば、本年度は国内5-6名、タイ国3-4名のインタビューを実施する予定である。 また、諸資料館、図書館等で文献資料の更なる収集に努める。また、同時にこれまで収集した資料を整理分析し、論文、報告書の執筆を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に国内・国外出張を予定していた処、コロナ禍により移動・渡航不能となったため。
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