研究実績の概要 |
本研究の課題は、近代国家移行期(本研究では主に1880-1940年代を対象期間とする)のタイ(シャム)国の社会構造(とりわけ、社会階層秩序、パトロン・ クライアント関係、多民族社会的性格)の実態・実相を、従来利用されたことがない独自のソースであり、かつ他にはない詳細な情報から成る、在タイ日本人の 個人文書を用いて、より具体的かつ詳細に解明することである。これによって法制面に偏った既存研究を超え、タイ社会構造の生きた実態を明らかにすることで ある。本研究では、在タイ日本人の中でも、一定規模の人数を有し、かつ知識層として記録や報告が少なからず残っている仏教者に主な焦点を当てている。 本研究の最終年度である2023年度は、過去5年に亘る調査研究の成果として、村嶋英治『南北仏教の出会い:近代タイにおける日本仏教者、1888-1945』(早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年9月、ⅶ+771頁,ISBN978-4-9106-0325-4)を刊行した。本書は、1888年に近代タイを訪問した最初の日本人仏教者生田得能以来、1945年までの間に、訪タイした日本人仏教者を旅券下付表によって極力全員拾い出して概説した後、その中でも日本語及びタイ語での記録が多い22名に関して、タイ仏教社会における彼等の活動をタイの社会構造にも言及しながら明らかにした。既存研究には本書と類似のものは見当たらないだけではなく、本書は上座部仏教の近代史の面でも、いくつかの新事実を明らかにしている。 「近代タイにおける大乗仏教と『小乗仏教』:タイ国王の国内大乗仏教徒処遇及び日本の大乗仏教がタイ仏教呼称に及ぼした意図せざる影響」『アジア太平洋討究』47号、2023年12月 「三国探検・仏骨奉迎後の岩本千綱:タイ王族・貴族の1903年紙幣偽造への加担」『アジア太平洋討究』48号、2024年3月、も発表した。
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