最終年度にあたる令和5年度の調査・研究を踏まえ、全体のおもな研究成果は以下のとおりである。 1.東部州の地方都市ロミエ近郊に居住する定住した狩猟採集民バカ(Baka)を対象とした現地調査によると、集落における人々の主体的なトイレ建設や使用、適切な維持管理は依然として一部に留まったままであった。バカの人々にとって、日常生活におけるトイレとは、他の近隣農耕民や街での生活者と異なり、いくつかの条件に応じて(例えば、農作業時や森のキャンプ滞在時、集落の規模や人口密度、季節変化等)必要性の度合いが異なる。そのため、必ずしもトイレの設置や使用こだわらずとも、排泄に伴う注意喚起や適切な処理・処置方法について周知することで健康リスクを軽減できるのではと、地域住民やNGO関係者と協議した。 2.生活用水の利用や排泄行動等の日常生活を通じて、バカの人々にとっての衛生意識がどのように認識され実践されているのかを検証した。日本で作成した紙芝居を持参して、テキストと画の内容についてバカの人々らと検討を重ねながら、子どもを含む地域住民の衛生意識を高め、健康との因果関係を認知するための実演を行った。 3.サニテーションの重要課題の一つである女性の月経については、個別インタビューを通じて継続的に基本的な情報を得た。日常的に他人との会話で話題にする機会が少ないテーマだが、関連した情報や対処法、心配事、独自の慣習や文化について自由に議論され、インタビューに参加した人々(男性も含む)の間で共有された意義は大きく、月経は女性にとって健康で正常な日常生活の一部であることが認知された。 以上を含む研究成果として、令和5年度では学会発表や月経、排泄に関する研究会での発表、一般向けの講演と合わせて、学会誌での報告書刊行、英語雑誌への投稿を行った。
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