研究課題/領域番号 |
19K12498
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
中野 裕考 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (40587474)
|
研究分担者 |
Hasegawa Nina 上智大学, 外国語学部, 教授 (70308112) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 前近代の思想 |
研究実績の概要 |
初年度は、前近代の知的伝統と哲学との関係に焦点を当てた研究を行った。アステカやインカにおける前近代文明に存在していた思想表現を「哲学」とみなし、西洋人による征服以前のラテン・アメリカにも独自の「哲学」はあった、と主張する代表的な論者の著作から、その主張の論拠を読み取った。それに対して、そのような主張に反対する論者の論拠も整理することができた。前近代のラテン・アメリカには「哲学」はなかった、と結論づける論者の多くは、ラテン・アメリカにできるのは西洋哲学の追随だけであるという立場をとる。この立場からは、哲学は普遍的なものなのだからラテン・アメリカに独自の哲学の追求は無意味であり、健全ではないという主張が出てくる。この主張は、現地の哲学研究者の大半が採用するものでもある。そのなかで、ペルーのマリオ・メヒア・ウアマンは、前近代における哲学の存在を否定しつつ、しかし自らもケチュア語を母語とするインディオである身として、西洋哲学を学びつつアンデス哲学を構築するという道を模索している。彼は、西洋哲学の古典のケチュア語への翻訳を行うと同時に、ケチュア語の世界を構成する核心的諸概念を西洋哲学の諸概念をもちいて表現するというプロジェクトを進めている。このプロジェクトは、西洋哲学をそのままの形でなぞり模倣するのとは違って、非西洋地域に属して非西洋語を母語とする研究者がその地域の文化に根差した仕方で哲学的思考を展開する際の、一つのモデルとなる。また、明治以来の日本における西洋哲学の輸入と、日本の前近代の伝統の継承との融合を進めていく際に、参考になる。というよりも、明治以来の日本の哲学界が行ってきたことの意味を反省する際のヒントとなると言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目の研究はおおむね順調に進展した。二年目の課題は、植民地時代の哲学であり、この課題にもすでに着手しつつある。 ただし、一年目の研究の成果の発表、二年目の課題のための資料集めに関しては、コロナウィルス対応による外出自粛、海外との往来の自粛の影響を強く受けている。2020年5月にペルーとメキシコから研究者を招待して行う予定であった意見交換が中止になり、また9月に研究代表者がメキシコとペルーを訪問して資料集めと現地研究者との意見交換を行う予定だったのも、取りやめざるをえない。今後の状況を見ながら対応を考えていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、コロナウィルス対応のため、現地研究者との交流が途絶えている状況である。現地研究者に直接、形式ばらない仕方で多方面にわたる意見を尋ねることができないことによって研究に遅れが生じつつある。またスペイン語文献は、なかなか国際的な書籍市場で流通していないことも多く、現地への訪問ができないと研究の材料にアクセスできない場合が多々ある。本年度および来年度にわたって影響が長期化する可能性もあり、研究の遅れができるだけ最小限で済むよう柔軟に対策を講じたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は、初年度に現地訪問する可能性もあって予算を計上していたが、二年目以降に現地訪問を延期したため、相当額が繰り越されることになった。(ただし二年目初頭にコロナウィルスの影響が生じたことで、この計画も全面的に見直さざるをえない状況になっているが)
|