研究課題/領域番号 |
19K12498
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
中野 裕考 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (40587474)
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研究分担者 |
Hasegawa Nina 上智大学, 外国語学部, 教授 (70308112) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前近代 / 文学 / 口承文学 / 哲学 |
研究実績の概要 |
後述のように、コロナ・ウィルス感染拡大の影響で、当初予定していた研究計画に大幅な遅れが出ている。その状況の中で得られた研究成果について簡単に記す。 前近代文明の現代哲学的意義について、日本とラテン・アメリカの間で興味深い比較が得られた。日本における前近代の知的遺産は仏教、儒教、および国学が対象としていた日本古来の神話や文学といったものがあるが、これらは文字を通じてアクセス可能となっている。日本人から見れば当たり前のように思われるこのことが、いかに当たり前ではないか、という非常に重要な事実に、アステカやインカといったラテン・アメリカの前近代文明の知的遺産との比較研究は気づかせてくれる。ただしかの地にはかの地なりの、前近代の知的遺産へのアプローチの仕方があるのであって、それは、テクストの読解という日本のオーソドックスな学問態度とは大きく異なっている。こういったことを通じて、非西洋地域がその地域にあった仕方でオリジナルな哲学を創出していく際のオリジナリティの出し方についての興味深い示唆を得ることができるだろう。 もう一つの成果として、上智大学の長谷川ニナ先生の協力をいただいて、アルゼンチン出身でメキシコ在住の哲学者エンリケ・ドゥッセルの伝記的ドキュメンタリーのサブタイトル作りが進んでいる。一般公開や販売というよりも、大学の授業での利用を予定しているが、その中で多くの学生に視聴してもらう見込みである。これによって日本とラテン・アメリカの哲学分野での交流を促進することができるはずである。2021年度中の完成を見込む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度一年間と2021年度前半は、コロナ・ウィルス感染拡大に伴う移動制限の影響で、計画していた研究に大きな支障をきたした。本来、2020年5月の時点でペルーとメキシコからそれぞれ一名ずつ研究者を招き、日本哲学会にて公開の議論を開催する予定だったが、その開催が2021年の5月にオンラインで実現することになった。この意味で、見込んだ研究の進捗はあったものの、一年遅れで実現したということになる。ただし、オンライン開催の準備も兼ねて、当初は予定していなかったような、オンラインでの共同での事前準備や論点整理を行うことができており、この点ではコロナによる移動制限の副産物があったと言える。他方で、本来の計画では2020年9月の時点で、ペルーとメキシコを訪問し、現地の研究者との意見交換と資料収集を行ってくる予定だったが、この予定が完全に滞ってしまっている。ラテン・アメリカの哲学に関する資料は、少部数での出版によるものが多く、また電子化されているものもごくわずかにとどまっている。そのためどうしても資料収集は、メキシコやペルーなどの大学図書館に実際に足を運んで複写してくるという旧来型の手法に頼らざるをえない。また現地の研究者との共同研究や意見交換は、既知の研究者との間ではオンラインでも進捗が見込めるのだが、新しいコネクション作りのためには、現地に実地に足を運ぶ必要が出てくる。こういった点での進展がこの一年半の間ほとんど見られないことは、大きな誤算であった。
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今後の研究の推進方策 |
本来、研究の期間は2021年度までとなっていた。しかし上記のようにコロナ・ウィルス感染拡大の影響で研究の進捗に大幅な遅れが出ている。それに伴って、予算の消化も滞っている。おそらく日本、メキシコ、ペルー社会でのワクチン接種の浸透が見込まれる2022年半ばころまでは、この状況に変化はないだろう。そこで、研究計画の一年延長を申請する可能性について、現在検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ・ウィルス感染拡大の影響で、予定していたメキシコおよびペルーからの研究者の訪日がキャンセルとなったこと、また現地を訪問しての、現地研究者との意見交換や資料収集がはかどらなかったことで、予算消化が遅れた。ただ、研究者の訪日用の予算は、スペイン語と英語の間の翻訳を行った際の謝金や、エンリケ・デュッセルの伝記映像の字幕作成の際の謝金に振り替えたことで消化される見込みである。また現地訪問用の費用は、科研費の期間を延長したうえで当初の予定通り消化したいと考えている。
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