研究課題/領域番号 |
19K12500
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 新疆 / ウイグル / 新疆のモンゴル / 内モンゴル自治区 / 言語政策 / ジェノサイド / 同化政策 / カザフ |
研究実績の概要 |
本年度において、中国や中央アジアなど海外と国内に出張してウイグル族と彼らと関連する諸民族の証言を集め、あるいは第一次資料を収集することは、コロナ禍の猖獗により、実現が一段と困難であった。また、新疆ウイグル自治区内においても、ジェノサイドが以前よりも深刻化し、日本に暮らすウイグル人たちも厳しい状況下に立たされており、彼らとの面会もさらに難しくなった。その為、以下のように研究調査を進めてきた。 第一に、日本ウイグル協会やその他の亡命集団の知識人に会い、複数回にわたって証言を集めた。欧米のウイグル人については、オンラインで話を聴くことができた。 第二に、昨年春までに中央アジアのウズベキスタンとカザフスタンで実施した現地調査のデータを整理し、資料分析をおこなった。 第三に、ウイグルと新疆に関する現代史の視点からの分析を一九九〇年代にまで遡り、過去の調査資料を綿密に再整理し、検討を加えた。 第四に、欧米の最新の研究成果を取り寄せ、学説史的分析を実施した。 そもそも東トルキスタンは18世紀までモンゴルのジュンガル・ハーン国の支配下に置かれていた。その後、清朝によって征服されて、新しい領土を意味する「新疆」へと変身していく。現代中国はモンゴルやウイグル、それにカザフ等他民族を中国人へ同化させて「中華民族」を創出する為に、急進的な政策をこの地に導入したことで、民族問題は激化した。その結果、ウイグル問題は近隣の内モンゴルにも飛び火した。新疆においてモンゴル語とウイグル語等による教育を廃止した政策が内モンゴルでも実施されたことで、両民族の抵抗が連携する形で勃発した。こうした動きに関する史料を集めて編纂し、同時に『ニューズウイーク』や『静岡新聞』、『産経新聞』等で市民に発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界規模のコロナ禍のパンデミックにより、現地調査を実施できなかった。また、政治的には中国政府による厳しい民族政策の推進により、インフォーマントたちとの面会も以前より難しくなった面がある。しかし、そうした不利な点を克服し、過去のデータと資料に対する綿密な分析と充分な再検討に重点を置いた。その結果、アウトプット即ち成果の公開は順調に進んだ。ウイグルと他民族、なかんずく内モンゴル自治区のモンゴル人との共通性を現わした成果、言い換えれば、諸民族が均しく直面している歴史的問題の共通性に関する見解を一段と深めることができた。それは、内モンゴル自治区にも新疆ウイグル自治区同様に、母語教育の廃止政策が導入されたことである。両自治区の民族問題に関する比較研究を今後更に進める必要がある。それは、新疆の形成とウイグル人をめぐる民族問題の解明にも有用である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度において、仮にコロナ禍が速い段階で収まれば、中国ないしは中央アジア、そして欧米において現地調査を進める予定である。それまでは引き続き、日本国内に暮らすウイグル人とカザフ人、それに新疆のモンゴル人、隣接する内モンゴル自治区の諸民族に対する聞き取り調査を進める予定である。また、既往の研究成果に対しても再検討を加え、情報発信を積極的におこなっていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新疆と中央アジア関連の洋書を購入したものの、海外のレート変動により、当初使用予定の金額との間に差が生じた。次年度も研究資料の購入に充てる予定である。
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