研究課題/領域番号 |
19K12500
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウイグル / 民族問題 / 新疆ウイグル自治区 / 中央アジア / ウズベキスタン / カザフスタン / 反テロ政策 / 一対一路政策 |
研究実績の概要 |
新疆はいつ、どういう経緯で清朝の一部とされたのか。清朝の遺産を継承しようとする中国の狙いはどこにあるのか。また、ウイグルの民族問題はどうして発生し、現在、如何なる状況に置かれているのかについて、おおむね当初の研究計画通りに進めた。具体的には在日ウイグル人たちを対象に聞き取り調査を実施した。その成果として、『ジェノサイド国家―中国の真実』を文春新書として公刊し、市民に発信した。 具体的には中国がいうところの「新疆」地域の歴史をユーラシア史の中で位置づけし、それをめぐるウイグル人と中国政府との齟齬について分析した。その上で、ウイグルという民族の形成と中国・ソ連の民族政策について回顧し、その性質について分析した。ソ連をモデルとした中国の民族政策は建国当初は積極的に「民族自治権の付与」に重点を置いていたのに対し、ソ連邦の崩壊後にはまた権利の回収・剥奪に舵を切った点に注目している。更に建国後に一貫して中国政府が推進して来た中国人の入植推奨政策・移民政策もまた結果としてウイグル人の生活空間を狭め、権利の抹消に繋がった、との民族問題の結果についても指摘した。 一方、ウイグル人もまた近現代において二度にわたって中国からの独立を獲得しようとした民族自決の歴史を有しており、その歴史は中央ユーラシアのテュルク系諸民族の民族運動とも連動している側面について注目している。そうした民族自決運動を「テロ」と断じて抑圧政策を取り続ける中国と抵抗を放棄しないウイグル側との今後の展開に引き続き調査研究していく課題が残っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウイグル人は現代中国の新疆ウイグル自治区にだけでなく、国境を越えて中央アジアのウズベキスタンとカザフスタン、それにキルギスタンのような諸国にも古くからそのコミュニティが存在している。特にウズベキスタンとカザフスタンには中華人民共和国の建国前後に移住・逃亡・亡命した人々からなる強固なコミュニティが複数存在している。当初の計画では中央アジア諸国に入って、現地のウイグル人から情報を集める予定であった。しかし、新型肺炎のパンデミックにより、現地入りはついに実現できなかった。そこで、主として日本に亡命し、日本各地で生活するウイグル人亡命団体や関係者から同様な情報を集めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
新型肺炎の流行もこれからは収まる傾向にあり、中央アジアの各国も少しずつ外国人を受け入れる方向に向かいつつある。そうした情勢変化を受けて、今年度はまず、夏に中央アジアのウズベキスタンに入り、現地調査を実施する予定である。 つづいて、西アジアのトルコに入国する予定である。トルコは今までに多数のウイグル人を1940年代後半から積極的に受け入れて来たので、同国のイスタンブールとアンカラ等に複数の居住地がある。彼等はトルコ国内で雑誌を発行し、さまざまな活動に従事し、新疆ウイグル自治区に関する情報も蓄積されているので、そうした資料の蒐集に着手予定である。また、台湾や欧米諸国、香港に居住するウイグル人を対象に、可能な限り文字資料の蒐集と聞き取り調査の双方を同時に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していた中央アジアその他地域への現地調査は実現できなかった。そのため、今年度は感染状況を見極めながら、次年度への調査旅費・成果論文投稿費等に充てる予定である。
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