最終年度においては、新疆こと東トルキスタンと中央アジアとの間を行き来していたウイグル人の商人と知識人について、ウズベキスタン国内と米国内で調査を実施した。 まず、春に中央アジア関連の既往研究を整理して、その残した課題を精査した。つづいて夏休み期間中にウズベキスタンに入り、首都タシケントをはじめ、南部のフェルガーナ盆地内で聞き取り調査をおこなった。聞き取りと同時に現地の研究者たちが書いた文献、現地で発行していた新聞・雑誌類を収集した。新疆ウイグル自治区での情勢が相変わらず緊迫していたこともあり、ウズベキスタンでも調査は困難な面があった。 その後、米国に渡って文献と聞き取り調査を進めた。首都ワシントンとニューヨークに暮らすウイグル人など中央アジア出身者の移動のルート、移動の原因などについて、特に19世紀末から1960年代の中ソ対立期に焦点を当てて聞き取り調査を実施した。ニューヨークではハーバード大学とコロンビア大学等で文献を集め、中央アジア研究者たちと研究情報と意見交換をおこなった。 研究期間全体を通して得た成果の一部として、在日ウイグル人と共同で公刊した著書『ジェノサイド国家―中国の真実』(文藝春秋、2021年)を挙げることができよう。この著書では現代中国の民族政策の性質と変容、及び新疆ウイグル自治区への影響について詳しく述べている。ウイグル人には独自の情報収集のルートと豊富な資料の蓄積があり、それを共同研究の形で利用できた。また、台湾とモンゴル国に暮らすウイグル人からも同様に情報と資料を入手し、新疆という地域が清朝末期から如何に形成され、どのように中国の一部として組み込まれて行ったかについての歴史的プロセスを現地の視点から解明できた。
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