国連総会は、2016年9月に「ニューヨーク宣言」、2018年12月に「難民に関するグローバル・コンパクト」を採択し、現在、難民支援の国際的なパラダイム・シフトが進行中である。その主眼点は、従来の「緊急支援モデル」を廃して難民の経済的な自立を目指す「開発支援モデル」を導入し、難民の地元社会への統合および両者の一体的な開発=発展を実現することである。現在、50万人以上の難民を抱えるケニア共和国でも実験的なプログラムが実施されている。本研究は、カクマ難民キャンプとカロベイェイ定住地において、特に難民と地元民の経済的・社会的関係に注目してこのプログラムの実態を解明し、パラダイム・シフトの有効性を検証することを目的とした。 本年度には、2022年5月12日~7月30日、2023年2月3日~28日に現地調査を実施した。その結果、以下の4点が明らかになった。(1)カロベイェイ定住地ではCash-for-Shelterプログラムにより、約800世帯の難民が共同で住居建設を終えている。それを実施した職人たちは自主的に「協会」を組織し、難民が3分の2、地元民が3分の1の仕事を請け負う体制を創出した。(2)カロベイェイ定住地には貯水池が5つ建設され、約1500世帯の難民と地元民が「組合」を組織して灌漑農耕を行っている。(3)地元民の家畜が難民の家庭菜園を荒らすなどの理由により、両者のあいだに暴力的な衝突が発生し、一般的には相手に対するネガティブな表象が横行している。(4)他方、地元民と難民は婚姻関係や友人関係を結び、具体的な個々人間には親密な社会関係が創出されている。 一般的にアフリカ社会には、対面的な相互交渉を繰り返して合意を形成し、社会関係を創出・維持するという特徴がある。本研究は難民支援のパラダイム・シフトもまた、人々のこうした行動原則に支えられて、その有効性が実現していることを解明した。
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