2022年度は国際ポピュラー音楽学会の日本の音楽パネルに登壇し、日本のヒップホップとアメリカのシーンの関係について発表した。もともと韓国・大邱で前年に予定されていた大会だが、コロナ禍のために延期され、オンラインで開催された。内向き志向が強まる日本の音楽界において、本場アメリカのシーンを参照し続ける日本のヒップホップシーンの特異性を確認しつつ、多様なルーツ/バックグラウンドを持つラッパー/プロデューサーの存在によって、日本のイメージが脱構築/再構築される様相を分析した。また11月には日本アメリカ文学会東京支部の月例会に招聘され、「ジャパニーズ・トミーと立石斧次郎──ミンストレル・ショウのアフロ・アジア」という講演を行った。19世紀アメリカのミンストレル・ショウで「ジャパニーズ・トミー」と名乗ったアフリカ系の芸人と、万延元年の遣米使節団で一躍人気者となった立石斧次郎の具体的な結びつきを検証し、そのアフロ・アジア性を分析したものである。アフロ・アジア関連では、研究書の翻訳としては本邦初のイターシャ・L・ウォマック(押野素子訳)『アフロフューチャリズム-ブラック・カルチャーと未来の想像力』(フィルムアート社)に解説文を寄稿した。さらに、定評のあるフィルムアート社の研究入門書シリーズ『クリティカル・ワード ポピュラー音楽』に「コマーシャリズム/キャピタリズム」という文章を寄せた。 今回の研究は2020年度に始まったコロナ禍の影響が大きく、その年にサバティカルを取得したこともあり、計画していたアメリカの大学での資料収集が進まなかった。だが審査の上、客員研究員として採用されたハーバード・イェンチン研究所では多くのアジアの研究者とオンライン上で交流する機会を持ち、日米あるいはアジアとアメリカの音楽文化史について発表する機会も得た。今後、こうした成果をもとに積極的に論文として投稿したい。
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