研究課題/領域番号 |
19K12516
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
冨田 敬大 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (80609157)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 牧畜 / 自然災害 / 乳利用 / 産業化 / 都市・地方関係 / 社会主義 / モンゴル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会主義体制下のモンゴル国における人間=環境関係の特徴とその変容を、都市・工業化に伴う人口動態(人口の増加、都市・地方間の人口移動)、農畜産物の商品化・市場化、資源利用・管理システムの変容との関連に着目して明らかにすることにある。 2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により予定していたモンゴル国での現地調査やイギリスでの学会発表が中止になるなど、当初の計画に変更が生じたが、以下の通り研究を進めた。第一に、国内外の都市消費者に向けた食品や工業原料としての家畜・畜産物需要の増加に伴って、20世紀の半ば以降、急速に進んだ牧畜の産業化が、地方の家畜飼育と土地利用にもたらした変化を、ゾド(寒雪害)災害と農牧業生産の関係に着目して検討した(8月に環太平洋文明研究センター研究会で口頭発表を行い、早稲田大学現代中国研究所のJournal of Contemporary East Asia Studies誌に投稿した)。第二に、社会主義期の乳・乳製品の生産・流通・消費の特徴を明らかにするために、地方の農牧業協同組合によるバター生産と、首都と新興都市の周辺地域における国営農場(酪農場)と乳製品加工工場からなる生産・流通のシステムについて関連する公文書の整理・分析を行った(7月に日本農業史学会で口頭発表を行った)。第三に、1960年代初頭以降、全国で整備された基本的には郡=農牧業協同組合ごとに完結した家畜飼育と土地利用の仕組みとその社会・生態的な持続性について批判的に再考した(1月に遊牧の科学研究会で口頭発表を行い、次年度にトルコで刊行される予定のイルハン・シャヒン教授古希記念論文集に寄稿した)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、当初の計画を変更し、集団化期の地方の牧畜経営と土地利用・管理の実態について、農牧業協同組合のもとでの家畜生産とゾド被害との関係に着目して検討した。ボルガン県の「家畜基本台帳」の分析を継続し、およそ30年間に及んだ集団化期における農牧業協同組合=郡ごとの家畜の種類、性、年齢といった静態的情報と、出生、死亡、国家調達、地域消費などの動態的情報を整理した。これにより、国内外での食肉需要の増加に伴って、メスと未成熟な個体が多い畜群構成になっていたことが、干ばつやゾドに対する脆弱性を高め、ゾド被害からの回復を遅らせることにつながったことが分かった。一方、コロナ禍によりモンゴル国への渡航が困難になり、農牧業協同組合の「土地利用計画書」の収集・分析と旧組合員への聞き取り調査を実施することができなかった。その代わりに今年度は、モンゴル国立中央文書館ですでに収集していた農牧業省関連文書やオルホン郡の土地利用計画書の分析を中心に進めた。次年度以降、モンゴル国での現地調査が可能となり次第、集団化期の資源利用・管理システムの地域間比較を行う。 研究成果の公表については、参加を予定していた国際会議が中止になったものの、学会・研究会等での発表や国際誌・図書への投稿などは概ね計画通りに行うことができた。また、前プロジェクトおよび本研究の成果のとりまとめに着手し、単著「近現代モンゴルにおける自然・家畜・人」の出版準備作業を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2021年度は、前年度までの補充調査・分析を実施するともに、研究成果のとりまとめを行う。前半期には、昨年度末に投稿したJournal of Contemporary East Asia Studies誌の英語論文の査読結果への対応を行い、成果の公刊を目指す。5月に日本文化人類学会で社会主義期のゾドと家畜生産に関する口頭発表を行う。後半期には、モンゴル国へ渡航し、とくに今年度検討が不十分であった農牧業集団化以降の資源利用・管理システムの特徴とその変遷を解明するために、1970年代以降各郡で作成された「土地利用計画書」の収集・分析と旧組合員への聞き取り調査を実施する。また、モンゴル国を中心とした旧社会主義諸国の20世紀における家畜生産と土地利用のあり方について、文献・論文の収集・分析を行い、牧畜の産業化をめぐる地域的な偏差と共通性について検討する。モンゴル国での現地調査については、政府による渡航制限措置が解除・緩和され次第、速やかに実施する。しかしながら、本報告書を作成している2021年4月末時点で、ウランバートル市では4回目のロックダウンを実施中であり、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況にある。そのため、モンゴル国への出張に関しては、状況次第で一年、延期せざるを得ない可能性があると考えている。 以上の作業と並行して、社会主義体制下で確立された社会・経済システムが、近代化以前の人間と自然の関係に及ぼした影響を実証的に解明し、その成果を、前プロジェクト期間中に仮説的に構築した近代化以前の牧畜の論理に基づく物質循環・水循環の様態とその近現代の破壊・崩壊の過程と対応させて検討することで、近現代のモンゴル草原における人間=環境の変容に関する理論的枠組みの精緻化に努める。最終報告書の作成を完了し、単著として刊行するべく作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、新型コロナウイルス感染症の影響で、モンゴル国での現地調査が中止になったこと、2020年4月にイギリス・オックスフォード大学で開催予定であった第5回国際砂漠会議が延期されたことがあげられる。 繰り越しした予算は、モンゴル国内の新型コロナウイルスの感染状況にもよるが、次年度のモンゴル国での現地調査にかかる必要(旅費および資料複写費等)に充てることを計画している。
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