本研究の問いは、生態人類学や民俗学のアプローチを用いて、屋久島において世界遺産でもある自然環境の保全と狩猟文化の維持・継続を両立できないかというものである。また本研究の目的は、以下の4点である。①屋久島における狩猟活動の変遷を、島内外の野生動物に対する需要、開発政策、世界自然遺産、環境政策、ジビエブームとの関わりのなかで明らかにする。②近年、猟友会のなかでみられるようになったコンフリクトに着目し、要因と解決策を検討する。③猟友会の若い世代が開始したジビエ販売や屋久犬の育成などの新しい動きに着目し、狩猟文化の継続を可能にする条件を検討する。④これらをもとに、環境政策やジビエブームと併存しながら、屋久島の人々が狩猟文化と世界遺産をともに維持できるような方策の検討を行う。①と③については、これまで猟師を対象に行ってきた聞き取りと猟友会や行政組織から得た資料、霊長類学者の未発表フィールドノート(1950年代の猟師に聞き取りを行い、当時の狩猟活動と民俗知識を調査したもの)から明らかにしてきたが、②についてはデータが不足していたため追加の聞き取りを今年度実施し、実態の把握を行った。これによって、コンフリクトは一部で見られるものの、猟友会の高齢化と構成員の減少のために全体ではそれほど多くないことがわかった。そのため、屋久島において狩猟が社会的および文化的役割を維持しながら世界遺産の管理を行っていくには、ジビエ販売や屋久犬の育成など新しい動きに活発に関わっている若い世代を拡大していくことが今後より重要な意味を持っていることを確認した。
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