研究課題/領域番号 |
19K12525
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 千晶 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 客員准教授 (80722058)
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研究期間 (年度) |
2020-02-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精霊 / イスラーム医療 / 民衆のイスラーム / 東アフリカ沿岸部 / ザンジバル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、イスラーム的医学である「スンナの医学」が、女性たちの抱える病や問題をどのように癒しているのか、について考察することである。 2022年5月には、第59回日本アフリカ学会学術大会において「イスラーム儀礼における太鼓使用の意義:東アフリカ沿岸部の事例から」というタイトルで研究発表を行い、コロナ禍で現地調査が実施できない中、これまでの研究内容を考察した。その中でも特に民衆のイスラーム化が進んだ際、女性たちが太鼓を用いてグループを組織し、イスラーム実践を行ったことを示した。この女性たちのグループが、病や問題に対して対処する役割を担っているのかについて、今後の研究で明らかにしていきたい。 環インド洋地域研究プログラム若手研究者集会において「インド洋がつなぐ人・モノ・文化:東アフリカ沿岸部の視点から」という題目で実施した口頭発表では、東アフリカ沿岸部の文化・社会を考える上でのインド洋を介した他地域との繋がりの重要性について発表した。 9月にはザンジバル(タンザニア連合共和国)において、4年ぶりに現地調査を実施し、主に治療者や患者の女性たちにインタビューと参与観察を行った。そして、結婚や出産等、生活環境が大きく変わるときに精霊の病として不調を感じ始める人が多いことが明らかになった。 2023年3月には、「社会に息づくスーフィズム:東アフリカ沿岸部の事例から」と題した論文を、赤堀雅幸(編)『今日のスーフィズム:神秘主義の諸相を知る』(上智大学イスラーム地域研究所)で発表した。本書籍は2021年度に実施した公開講座の成果物であり、学部や大学院で活用されるテキストでもある。本論文では、タリーカ(スーフィー教団)が東アフリカのイスラーム化に貢献し、女性も主体的に教団活動に参加していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は海外調査を4年ぶりに実施し、インタビューと参与観察をすることができたことや、論文1本、口頭発表3本、辞典項目1本を発表したため、本研究はおおむね順調に進展した。特に海外調査では、スンナの医学の治療所に通う女性たちと指導者たちに、精霊と病についてのインタビューを実施した。その分析結果は、翌年度に論文として発表予定である。今後も毎年、継続的に現地調査を実施することができれば、コロナ禍で遅れていた本研究を順調に進めることができる。また、今年度は学会発表や研究発表に加え、生涯学習講座での講演や学部生・院生向けの教材執筆等をする機会があり、研究成果の社会還元という意味でも、意義深い経験をすることができた。今後も論文執筆や研究会発表に加え、一般向けのイベントや執筆活動にも力を入れ、総合的に研究活動を進展させていくことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2023年度は、研究のまとめを行う。これまでのインタビュー内容を分析し、不足している部分については現地調査でインタビューを行う。また、女性たちのライフストーリーを聞き取り、その中で精霊の役割や存在意義を明らかにする。具体的には教育歴や家庭環境、結婚・出産などのライフイベントが、女性たちの生活環境にどのような変化をもたらし、ときに精霊の病としてどのように出現するのかを明らかにする。 また、現在所属する京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科では、次世代セミナーやブックレット出版等、口頭・論文発表を行う機会が多く設けられているため、このような機会を活用して積極的に研究成果を発表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、2021年度に新型コロナ感染症蔓延の影響で海外調査が実施できなかったことや、2022年度は海外調査を実施したものの、費用は他の財源から支出したことから、使用予定額を大きく下回った。しかし、2023年度は財源が当該助成金のみであることや、1回以上の海外調査を予定していることから、本助成金は研究を進める上で不可欠である。 使用計画としては、海外調査(タンザニア連合共和国)への渡航2回(航空券、宿泊費、車両借上等)として100万円、調査協力者への謝金20万円(1人2千円×100人)、国内学会参加費(3件)として15万円、物品費(書籍5千円×80冊)40万円、その他10万円を予定している。
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