研究課題
本研究では、フィリピンとマレーシアにおける国家財政が、おもに行政府の長と立法府の議員の間での「支持」と「レント」の取引としての性格を有するために財政規律が弛緩するという観点から、両国の予算(おもに歳出)および予算過程を分析する。特に、行政府リーダーが立法府に対して過分な予算を分配しなければならないのは、議会の多数を掌握し、自らの権力基盤を安定化させる必要があるためである。つまり、首相や大統領の権力基盤が不安定であればあるほど、国家財政は行政府リーダーの権力の安定化と、彼らを支持する議員の個別選挙区や個人的な利益に資するものとなっていく。財政規律の弛緩は、国家財政の個人化(personalization)が原因であるというのが、本研究の議論であり、とりわけ、財政をめぐる取引が、植民地期、独立期、開発行政機構設立期を経て長期にわたり制度化・再生産される過程を描き出すことを、おもな目的の一つとしている。ただし、コロナ禍に伴う渡航制限により、「現在までの進捗状況」で述べるとおり、アーカイバルワークが全くできなかった。そのため、財政的観点を保ちつつも、オンラインでデータを収集でき、かつ今日的な重要性のあるトピック(コロナ禍での各国の財政出動)に軸足を置かざるを得なかった。こうした研究は、具体的には、Suzuki (2021)、鈴木(2021年)として結実した。Suzuki(2021)では、フィリピン、マレーシアを含む東南アジア5カ国について、コロナ対策のための財政支出およびその志向性(どのセクターに、どのような条件で財政が配分されたか)を明らかにしたうえで、特にマレーシアとフィリピンに焦点を当てて、政府と民間セクターの関係からそれぞれの国の財政支出の規模や財政配分のパターンを説明した。
4: 遅れている
植民地期の遺制の解明を目的とした本課題にとって、ワシントンDC、ロンドン、シンガポール、クアラルンプールでのアーカイバルワークが不可欠だったが、コロナ禍に伴う渡航制限のために、全てキャンセルせざるを得なかった。
渡航制限が解除されつつあるものの、次年度中に計画通りの渡航ができる見込み必ずしも高くない。現地アーカイブにおいて資料収集を行うRAを雇用し、電子データにて資料を送ってもらう方法が最も現実的と考える。
2021年度は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う渡航制限のため、アーカイバルワークが全くできず、当初の課題を遂行することができなかった。次年度は、渡航制限の状況が許せば、都合のつくかぎり渡航し(旅費としての支出)、そうでない場合は予定していたアーカイブでの資料収集の補助に携わるRA謝金(人件費・謝金)支出により、情報収集を行う。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件)
De Lasalle University Arts Congress Proceedings
巻: Vol.5 ページ: オンライン出版のためなし
『マレーシア研究』
巻: 10号 ページ: 54, 58