研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、「不可触民」たちが社会運動に導かれる主たる誘因として、またかれらの凝集の軸として、「聖人信仰」を捉え、調査研究を推進していくものである。 本年度(2022年度)については、引き続き新型コロナウィルスの感染状況の影響を多分に受けたが、12月に、短期間ではあるが、渡印・現地調査を行うことができた。そこでは、主に村落部における「改宗仏教徒」(「不可触民」、ダリト)の婚姻儀礼の様相についての調査を行い、婚姻関係のあり方と自己主張ならびにダリト政党支持の現況について、参与観察ならびにインタビューに基づく調査を行った。そこにおいては、「歴史的聖人」への信仰とともに、「現代的聖人」に対する強い崇敬意識を軸とした人びとの関係性構築のさまをみることができた。本調査については、さらなる調査・分析を重ねて考察を深め、論考としてまとめる予定である。 また、現地調査の実施に制約がある状況下において、これまでの研究蓄積の整理と取りまとめ、刊行・発信に努めた。具体的・代表的には、ポストコロニアルの代表的な思想家であるG・C・スピヴァク氏の論考を訳出し、刊行がなされた。すなわち、磯前順一他(編)『ポストコロニアル研究の遺産―翻訳不可能なものを翻訳する―』(人文書院、2022年12月出版)に掲載された、「翻訳とポストコロニアル研究の遺産」(133-157頁)である。 もう一点、編者の一人として、南アジアの生老病死を主要テーマとした論文集(Life, Illness, and Death in Contemporary South Asia: Living through the Age of Hope and Precariousness, Published February, 2023 by Routledge)の作成・刊行に携わったことも挙げることができる。
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