研究課題/領域番号 |
19K12544
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研究機関 | 筑紫女学園大学 |
研究代表者 |
田村 史子 筑紫女学園大学, 文学部, 教授 (70320380)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゴング / ガムラン / 熱間鍛造 |
研究実績の概要 |
研究目的として挙げた「『ゴング』が”楽器”として完成するまでの、製造の全プロセスの解明」、に関しては、現地協力者サプトノ氏とサロジョ氏と共に、インドネシアのジャワとバリにおける「熱間鍛造」のさらなる調査を行い、当地域の製造と流通の状況の詳細をまとめることができた。また、現在まで稼働している工房についても深く調べており、この分野の研究の基本資料といえるものを作成することができた。 「楽器の音(音高や響き)と形状の相関関係の規則性を見つけ出す」、という目的に関しては、国内協力者の①塩川博義氏(日本大学生産工学部教授・音響工学)、②中川一人氏(日本大学生産工学部専任講師・金属工学)③渡辺祐基氏(九州国立博物館学芸部博物館科学課アソシエイトフェロー)と共同研究を行い、垂直に吊って鳴らすゴングと水平に台などの上に置いて鳴らす『ゴング』では、音と形状に関して明かな違いのあることを証明し、新たな分類基準と成し得ることを提言し、また、「吊りゴング」と「水平置きゴング」という分類用語を提案した。 2年目の調査の準備として、カンボジアでの製造と流通の事前調査を行い、「熱間鍛造」と「冷間鍛造」の工房の存在と、製法の基本的な解明を行うことができた。また、ヴェトナム歴史博物館の調査許可を得て、歴史的視点から流通の問題を考察するため重要な資料になる、15世紀の沈没船から発見された『小型こぶ付きゴング』を、中川一人氏とともに調査することができた。製造法に関しては、「熱間鍛造」であるか「鋳造」であるかの確定は出来なかったが、500年以上海水に浸かっていたにも関わらず腐食していなかったという理由と、その形の整っていることから、素材が青銅であることは確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の一つとして掲げた「『ゴング』製造のプロセスの解明」は、製造方法の異なる①「熱間鍛造」②「冷間鍛造」③「鋳造」に関して、それぞれ調査を進めている。①「熱間鍛造」はインドネシアのジャワとバリの詳細な調査を行い、ミャンマーについては概要の調査を、カンボジアについては、事前的調査を終えている。東南アジアで当製造法の行われているのは、上記三国に限られるだろう、との推論が出せるだけの調査は行ったたことになる。②「冷間鍛造」は、非常に広範囲で行われており、またその製造法の細部に差異が多いので、より多くの事例を積み重ねる必要がある。③「鋳造」は、ヴェトナムに特化している。その製造法の調査は終えている。 続いて、上記調査によって収集された、楽器、金属素材、楽器の破片、などを材料に、合金の結晶分析や成分サンプリングを、また、楽器の録音を基に音響分析を行った。さらに、形状と音高・音色の関係性を探るために、X線CTによる形状分析を行った。その結果、上記3種の製造法の違いが、結晶分析によって明らかにできること、中央にこぶ状の突起のあるものとフラットなものとの音響学的な違い、垂直に吊って鳴らすものと水平に台などの上に置いて鳴らすもの、音と形状に関して明確な違い、などが明らかになった。 しかしながら、楽器の音高や響き方を決める楽器の調整の仕方に関しては、現地の工人たちによって、きわめて体験的に行われているため、計測することや、原則を見つけ出すことが困難であった。更なる工夫を用いての共同研究が必要とされるだろう。 なお、上記の共同研究の可能性を探ることを目的とし、3月末に本学で開催される予定であった公開の特別研究会は、コロナ感染予防のため中止された。また、詳しい調査を行っていない地域の現地調査も、同様の理由で実施できていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.すでに行った金属の結晶分析や成分のサンプリング、楽器の音響分析、X線CTによる形状分析などのデータを、より詳しく解析し、楽器の音と形の関係について研究を進める。形状分析に関しては、X線CTでは、厚みの計測が十分にはできないことが分かったので、MRIを用いての計測を計画している。また、楽器の音高や響き方を決める楽器の調整の仕方に関しては、現地の工人たちによって、きわめて体験的に行われているため、計測することや、原則を見つけ出すことが困難であった。更なる工夫を用いての共同研究が必要とされるだろう。同条件で作られた楽器と、合金のサンプルを、長期間保管し、変形などの経過を調べる、などの方法を考えている。 2.現地調査の済んでいない地域、さらに詳しい調査を行う予定である地域には、コロナ感染予防のため入国できない国々が含まれる。現地の研究者などとの連携を深め、情報収集や代理・代表調査などの方法を探る必要があるだろう。また、さらなる共同研究の可能性を探ることを目的とし、前年度に開催される予定であった公開の特別研究会を、何らかの形で実現し、成果をまとめることを考えている。 3.歴史的視点からの考察を深めるために、複数の言語による歴史資料の収集と翻訳作業をより本格的、体系的に始める。また、海中を含め、考古学的資料の整理・検討を始める。そのために、当分野の専門家との連携を模索し、共同研究の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年3月21日に予定していた本学人間文化研究所「特別研究会」の開催が、コロナ感染予防のため中止された。東京から二人、京都から一人の発表者の招聘を予定していたので、予算計上していた、招聘費用(旅費・宿泊費等)等が、未使用となった。2020年度に同様の研究会を開催し、その経費として使用する予定である。
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