研究課題/領域番号 |
19K12548
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
徳久 雅人 鳥取大学, 工学研究科, 講師 (10274557)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 個人適応 / 車載器 / 対話 / 走行記録 |
研究実績の概要 |
自動車旅行においてユーザに適した情報を提示する技術が望まれている.ユーザのためになる立ち寄り先等の情報を推薦するために,ユーザの個人的情報が必要となる.一般的には多くのユーザの情報をサーバに集約する手法がとられるが,走行履歴には高度にプライベートな情報が含まれるためサーバへの集約は好まれない.そこで,本研究では「ユーザの個人的情報は,ユーザの車載器のみに集約されることを前提として,様々なサービスを行う」という手法の研究開発を行う.助成期間中,(1)個人的な情報の収集,(2)個人的な情報の利用,(3)自然言語インタフェース,という分野の問題解決に取り組む. 2021年度において,まず (3)に関して対話制御の問題を扱った.ユーザが乗車した際,現在地,ユーザの出来事,今後の予定の3点について車載器がユーザに問いかけを行う.車載器システムの主導による対話制御として実験を行った.具体的には,単純な What 型の質問に限らず,ユーザの回答が予想される状況では Yes / No で回答できる質問を行い,ユーザの回答が期待できない状況では問いかけを抑制するという制御である.実験の結果,現在地や出来事についての問いかけは平常的に行われたが,今後の予定についての問いかけは煩わしさが指摘された.次に (2)に関して対話理解への利用を実現した.予定として述べられる地名は不正確であるが,走行履歴に見られる地名を用いて正確な地名に自動補完を行い,更に緯度経度の座標を特定した.その結果,目的地入力が簡単になった.最後に,(1)に関して走行傾向の分析基準を提案した.過去5年間の周遊(自宅から目的地に向い帰宅するまでの走行)をクラス分類することで,日常走行か非日常走行かという走行傾向の識別を行った.このことから,旅行傾向時に限り問いかけを行うことで対話における煩わしさの低減が可能であると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,ユーザの個人的情報を車載器のみに蓄積し,自動車旅行においてユーザに適した情報を提示する技術の開発を目標としている.(1)個人的な情報の収集,(2)個人的な情報の利用,および (3)自然言語インタフェースの3項目にわたる問題の解決に取り組む. (1) および (3) に関して自動車にユーザが乗車した際に聞き取り対話を行うこと,特に予想のつく状況では Yes/No 回答で済ませられるような問いかけとすることや,問いかけを躊躇することを取り入れることで,単なる What 型の問いかけよりも,ユーザの回答負担の低減が可能になった.しかし,実証実験では予定の問いかけが煩わしいという感想があったため,非日常的な予定があると予想されるときに限定した問いかけへと改良することが課題となった. (1) および (2) に関してユーザの走行傾向の自動分析について可能性の確認ができた.周遊の走行記録に対して時間的・距離的なクラス分類を用いることで非日常的な状況を予測することが可能であることが確認できた.これにより問いかけの制御に実現可能性が見込まれる.また,周遊の余剰距離を算出することも可能となり,立ち寄り先の推薦において推薦地域の範囲を指定可能となった. 以上により,当初予定(推薦文生成)とは異なる側面において新たな知見を得ることができた. なお,科研費初期の申請時には実証実験をある程度の人々を通じて行う予定であった.しかし,コロナ禍のため自動車関係の人々との交流激減,および,半導体不足により車載器機材(Raspberry Pi 3)の入手困難という事態に陥っており,不特定多数での実証実験については見送ることとする.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は,進捗状況で述べた項目のうち(2)個人的な情報の利用について実装を行う.具体的には,自動車旅行における立ち寄り先推薦を車載器システムが積極的に行う場合について実験を行う. 観光旅行における立ち寄りでは,観光スポットの距離的・時間的な効率が最初の選択条件になっており,その範囲内でのカテゴリカルな選択がセカンダリとして行われると筆者は仮説を立てている.また,候補一覧があればユーザが自ら選択するので,ユーザの嗜好に合わせたカテゴリを精度良く求める必要はないと予想している.車内では移動時間に余裕があるため,説明が長引いても問題がないことがある.すなわち,データサイエンスとしては精度向上を尺度とするが,実務的には問題にならないかもしれない. 従って,本年度では予定の時間的情報,自車の位置と目的地との距離的情報を中心とした立ち寄り先推薦の有効性の調査を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は次の2点である.まず,科研費申請時には,鳥取県という地域性から旅費を必要としていた.しかし,コロナ禍のため学会がオンラインで開催されたため,旅費が全く使用されなかった.次に,車載器の実証実験のために自動車愛好家の交流会に参加し,被験者を募る予定であったが交流会がなくなり被験者への謝金や機材費が全く使用されなかった. 2022年度においては,推薦コンテンツ事前計算システムの導入を行う.車載器が立ち寄り先推薦を行うため,観光地の解説文書などを推薦文生成用に事前計算を行うシステムである.近年の自然言語処理技術では BERT の使用が標準的となったため,本研究においても先端技術の利用が必要であることが導入理由である.
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