本年度は最終年度として、これまでの研究成果の取りまとめと成果物の執筆・発行を行った。成果物は報告書としてISBNを取得して2024年3月に発行し、本研究関係各所に配布した。さらに後日、Webでも公開する予定である。 本研究は、社会的価値創出の機能を有するDMOを指すものとして「社会的DMO」という用語を定義したうえで、DMOが創出し得る社会的価値とは何か。DMOはどのような公共的役割をどの程度まで果たし得るのかについて考究したものである。研究は大きく、理論的体系化と実証的調査から成り、後者は研究メンバーが委員などの形で実践的にDMO関連団体に関わっている、北海道知床地方と沖縄県八重山地方を事例対象地域とした。そして、これら地域をまとめる用語として「辺境」(国境に近在する地域)という語を導入した。 その成果としてまず、DMOの社会的役割は3位相(供給される財・サービスの社会性、財・サービスを供給するプロセスの社会性、ガバナンスのあり方における社会性)に分類され、かつ、DMOが直接的に創出しうるのは第2、第3の位相であり、第1の位相はこれを創出している事業体や市民団体に対する協力・支援で実現しうることが理論化された。また特にこの第1位相に関して、ソーシャル・クオリティ・アプローチを援用することにより、その実現のための体制論が体系的に描出された。一方で現地調査からは、人的資源不足や官民連携であるが故のガバナンスの不安定さなどのミクロな事象から、組織像や事業構造や組織文化における「揺らぎ」などのマクロな事象まで、日本のDMOが社会的価値を創出する上での現実的な問題が明らかにされた。 日本のDMOについて、社会的価値創出に特化して理論的体系化を行った研究は稀有である。その成果はDMO論や観光組織論のみならず、観光のソーシャル・インパクトに関する国内外の研究に対して寄与するものである。
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