ここまでにメキシコのユカタン半島北部で、文化遺産や博物館における古代文明の展示のあり方にどういった自然観が関与させられているかを調査してきたが、コロナ期間を経て、ここ数年自然環境の破壊に対する批判をものともせずに急激に進んだマヤ鉄道の建設を通して、研究開始当初の想定とは同地の状況が大きく変わってきており、本科研の議論にとりあえずの区切りをつけるために、比較的開発の進みが遅い隣国ベリーズに赴き、同国西部地域のマヤ遺跡公園の状況を観察した。同国はこの30年ほどエコツーリズムに力を入れるなど、文化と自然とのバランスがとれており、近年遺跡公園の整備も進んできている中、かつてそこに住んでいた人たちの自然観が、その文化展示にも反映されていると感じた。そこでは、メキシコ、ユカタン半島北部では大規模開発の中で見失いそうな、示唆的な知見を得ることができたと考える。 また、限られた時間ではあったが、沖縄本島のグスク遺跡と同地の自然観の関わりについても観察することができた。沖縄はこれまでも、ユカタン半島との様々な類似性から、何度か調査をおこなってきた場所である。沖縄ではその独特の自然観の上に、文化があり、グスクが形作られており、博物館など関連する文化展示施設でも、それが比較的適切に表現されている様子がよく理解できた。 こうしたベリーズや沖縄の事例と比較することで、メキシコ、ユカタン半島北部では、経済的な動機が最優先されて開発が進むなかで、文化や自然へのリスペクトを欠いた現実が、同地のマヤ文化展示の背景に厳然として存在することが際だって見えてくることがわかった。
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