研究課題/領域番号 |
19K12552
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
桐山 恵子 同志社大学, 文学部, 准教授 (50432597)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | マリー・コレリ / シェイクスピア / ストラトフォード・アポン・エイボン / リテラリー・ツーリズム / 観光 |
研究実績の概要 |
今年度は世界的な感染病の蔓延により、昨年度から継続する予定だったイギリスでの現地調査および資料収集が不可能となった。そのためストラトフォード・アポン・エイボンのリテラリー・ツーリズムにおいてマリー・コレリが果たした役割の研究に関しては、昨年度に収集済みの資料を整理・分析するにとどまらざるを得ず、新たな資料の追加はかなわなかった。しかしながら、たとえば資料のひとつである、コレリ自身が作成したストラトフォード・アポン・エイボンでのおすすめのお店一覧表などの考察から、彼女が観光収益の経済的な重要性を認識し、積極的に観光客を誘致しようとしていたことが判明するなど、新たな事実が浮かび上がってきた。この点に関しては来年度の研究につなげていきたい。 また昨年度のシェイクスピア・バースプレイス・トラストでの調査で、コレリと日本とのつながりを示す資料が確認されたことからも明らかなように、現在でこそ、その名を知る人が少なくなっているが、明治から昭和初期にかけての日本では、コレリはそれなりの知名度をもっていたと考えられる。実際、コレリの小説『ヴェンデッタ:忘れられた男の物語』を元にした翻案小説『白髪鬼』が黒岩涙香によって書かれ、さらにそれが江戸川乱歩の『白髪鬼』執筆へとつながっていったのである。本年度は『ヴェンデッタ』に関する論稿「緑深き原生林へ―マリー・コレリ『復讐―忘れられた男の物語』における自然回帰」を共著の形として公表することにより、コレリの日本受容における研究に貢献することが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は感染病蔓延のためイギリスへの渡航が不可能となった。ストラトフォード・アポン・エイボンでの歴史的建造物の保存調査やシェイクスピア・バースプレイス・トラストでの資料収集が出来ず、この点においては当初の計画を軌道修正せざるを得なかった。しかし収集済みの資料の整理・分析により、これまでの研究に新たな視座を加えることが出来た。たとえばマリー・コレリ自身が当地のレストランやお土産物屋さんのおすすめリストを作成するなどして、観光客の誘致に積極的な態度をとっていたことが判明した。 上述の通りストラトフォードにおけるコレリの調査研究は予定通りには進まなかった反面、コレリ小説の日本受容という新たな研究課題については、順調に進めることが出来た。翻案小説として日本で広く読まれた『ヴェンデッタ:忘れられた男の物語』に関する論稿「緑深き原生林へ―マリー・コレリ『復讐―忘れられた男の物語』における自然回帰」を共著の形で発表することにより、その研究成果を公表することが出来た。よって、概して進捗状況はおおむ順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、感染病が終息し渡航可能となれば、英国ストラトフォード・アポン・エイボンにおいて、コレリの尽力により破壊を免れ、保存されることとなった歴史的建造物の現地調査およびシェイクスピア・バースプレイス・トラストでのコレリ関連の資料調査を継続したい。 渡航が不可能となった場合でも、すでに収集済みの資料分析をさらに進め、既存の研究に新たな見解を加えていきたい。これまで19世紀のストラトフォード・アポン・エイボンでコレリが果たした役割を中心に研究を行ってきたが、今後は没後のコレリ評価についても調査を進めていきたい。 また英国リテラリー・ツーリズムにおけるコレリ研究と同様に、引き続き明治から昭和初期にかけての日本でのコレリ受容に関する研究も進めていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
世界的な感染病の蔓延により、イギリスへの渡航が不可能となり、さらに学会もオンライン開催へと変更になった。そのため旅費として使用する予定だった助成金が不要となり、次年度使用額が生じた。 翌年度に渡航可能となれば、イギリスへの渡航費・現地調査費用および学会参加のための旅費に充当する計画である。
|