昨年度に引き続き、2021年度も感染病蔓延のためにイギリスへの海外渡航は不可能となってしまった。そのためマリー・コレリのLiterary Tourism(文学的観光)を考察するうえで、最も重要な土地である英国ストラトフォード・アポン・エイボンでの現地調査および資料収集ができなかった点は非常に残念であった。 しかしながら、2019年度にバーミンガム大学付属施設である「シェイクスピア・インスティテュート」で収集してきた資料をもとに、今年度もコレリ研究を進展させることに努めた。その成果の一部として、BBC Home Service で1955年に放送されたラジオドラマを論じた「ベストセラー作家の帰還―BBCラジオドラマ脚本のマリー・コレリ考察―」(『主流』第83号、同志社大学英文学会、2022年、pp.29-43)を発表することができた。1924年に亡くなったはずのコレリが没後約30年のロンドンに蘇りを果たし、マスコミを騒がせるという設定のラジオドラマ脚本は、その存在自体が忘れられていたと考えられ、これまでのコレリ研究で見逃されてきた。拙稿は既存のコレリ研究に新たな視座を提供することができたと考えられる。コレリはベストセラー作家であったため、存命中の彼女とマスコミとの関わりや彼女に対する当時の評価の研究はなされてきたが、没後のコレリ評価に対する研究は手薄となっており、その点でも拙稿は有意義であったであろう。
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