研究課題/領域番号 |
19K12559
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
小澤 考人 東海大学, 観光学部, 教授 (50631800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メガイベント / レガシー / 観光政策 / 都市再生 / 量的調査 / ソフトパワー / 外交戦略 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2020年東京大会の先行モデルである2012年ロンドン大会に注目し、①その開催に伴う開催地域へのレガシー評価と、②観光政策への意義を明らかにすることにある。2012年ロンドン大会の評価、及び都市再生とメガイベントとの関わりについて、メガイベント論を軸に2010年代に多数公表された欧米の研究をふまえつつ、開催都市がメガイベント開催の機会を活用し、都市再生を加速させることの意義について、観光学的観点から捉え直す作業を遂行してきた。2022年度の研究実績は、次のとおりである。 第一に、2012年ロンドン大会のメイン会場跡地であるオリンピックパークにおいて、量的調査の補完的な追加リサーチを実施した。今回は現地の協力者を得て、筆者作成の調査票によりパーク来訪者への追加調査の実施を遂行した。その結果、先立つ調査結果の確認と知見の深化が可能になった。 第二に、新たな理論的探究の課題として、21世紀に入る局面から注目を集めたソフトパワーの考え方をふまえ、広義の外交戦略と関わりの深いパブリック・ディプロマシーや文化外交、及びネイションブランティングの概念が、2012年ロンドン大会のレガシー計画や実践面でも戦略的に活用されていることから、事実ベースの確認と概念整理を中心に理論的な検討を遂行した。 第三に、2012年ロンドン大会を先行モデルとした2021年東京大会について、共同研究のプロジェクトの一環として、東京都内在住の20~79歳の男女計2400人に対して、大会全般の評価を中心にウェブアンケート調査を実施した。また関連して、観光・ツーリズムに関連する側面に特化した別途調査も実施た。そのほかメガイベントに伴う都市再生の進捗状況に関わる評価作業の一環として、新国立競技場の周辺エリアに該当する明治神宮外苑について、メガイベント論の知見と外苑の歴史的経緯をふまえた検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一に、本研究ではメガイベント論を軸に既存の研究成果(Smith[2012],Roche[2017], UNWTO[2017]他)を参照しつつ、2012年ロンドン大会についてレガシーと都市再生との接点について観光学的意義を検討する作業を継続してきた。 第二に、前述のとおり2012年ロンドン大会のメイン会場跡地であるオリンピックパークにおいて、量的調査の補完的な追加リサーチを実施した。その結果、サンプル数の目標値に到達し、またこれに先立つ筆者自身の調査結果を支持するものとなり、知見の深化が可能になった。 第三に、メガイベントのレガシーとしての都市再生と観光政策に注目して研究を進めてきたが、2012年ロンドン大会のレガシー計画や遂行プロセスに対して広義の外交戦略――パブリック・ディプロマシーや文化外交、及びネイションブランティング――が活用されている点を確認し、それゆえ新たに概念整理や理論的検討を進め、その意義を捉え直す作業を開始した。 第四に、2012年ロンドン大会を先行モデルとした2021年東京大会について、大会全体の評価に関する東京都民へのアンケート調査のほか、メイン会場周辺エリアに該当する明治神宮外苑の都市再生について文化社会学の観点からレガシー評価を遂行した。以上の四点は、一部新たな展開を含むが概ね当初の計画どおりであり、2022年度中も複数の学会報告にて研究成果を公表できたことから、ある程度まで順調に進捗していると評価した。 他方で第五に、コロナ禍の影響で昨年度もロンドン大会開催跡地での現地調査を実施できなかったため、総じて「やや遅れている」と自己評価した。ただし、すでに実施した量的調査の補完的リサーチのほかに、ロンドンレガシー開発公社(LLDC)の関係者を対象にインタビュー調査を今後実施予定であり、既存の研究成果の深化と新たな知見の付加が可能になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画を一部再編し、2023年度は下記に沿って研究を進める予定である。 第一に、2012年ロンドン大会の開催に伴う①開催地域の都市再生、および②観光政策への意義については、すでにメガイベント論の研究成果をふまえて研究を継続してきたが、この点については前年度の量的調査の補完的リサーチに加えて、新たにロンドンレガシー開発公社(LLDC)の関係者を対象にインタビュー調査を実施する予定である。 第二に、継続課題として、①ロンドン大会の公式のレガシー評価報告書(「OGIレガシー評価報告書」2015年など)を観光政策の観点から検討する作業、および②英国の観光政策に関する資料(「英国政府観光政策2011」「ゴールデン・レガシー」など)を整理し、観光政策文書の検討を進める作業を継続していく。 第三に、これまでの研究で判明した事実として、2012年ロンドン大会のレガシー計画や遂行プロセスに対して広義の外交戦略――パブリック・ディプロマシーや文化外交、及びネイションブランティング――が実践されている点をふまえ、ソフトパワーを理論的支柱とする広義の外交戦略の観点について理論的な探究を進めつつ、2012年ロンドン大会のケースの意義を新たに捉え直す作業を加味していく。以上の成果については、21世紀のメガイベント研究として国内のケース(2021年東京五輪や2025年大阪・関西万博)も視野に入れつつ、当面の研究上の成果を書籍・報告書として総括していく予定である。 第四に、先の2021年東京大会について、ロンドン大会の研究成果を参照軸としつつ、メガイベント論の観点をふまえて大会全体および観光・ツーリズム面のレガシー評価を行う研究課題を継続する。本件は、分担研究者として参加している共同研究に接続していることから、新たに編著本(青弓社)の編者として書籍刊行をつうじて研究成果の公表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の支払額に相違が生じた理由としては、前年度と同様、パンデミックの影響により未だ海外渡航が困難であったことによる。英国への渡航が依然として容易でなかったことから、2021年度に予定していた現地訪問に伴うフィールド調査(特に地域住民および専門家へのインタビュー調査)を実施できず、渡航費用および現地調査での調査協力費が使用できず、支払額の相違が生じる結果となった。他方、研究計画の一部再編に伴い、英国・ロンドン市近郊に在住の協力者を得て量的調査の実施を遂行したことから、謝金での支払い対応を行った。ただし総じて2020年から2022年にかけて、現地調査のための渡航費用に該当する研究費は執行できず、残金として残されていることから、支払額の相違が生じる結果となった。これをふまえ、当初の研究計画の年度を一年間延長して、2023年度も研究を継続する形とした。
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