研究課題/領域番号 |
19K12562
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
藤井 秀登 明治大学, 商学部, 専任教授 (90308057)
|
研究分担者 |
老川 慶喜 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 教授 (10168841)
恩田 睦 明治大学, 商学部, 専任准教授 (50610466)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 保存鉄道 / 東京駅丸の内駅舎 / セントパンクラス駅舎 / ブラックプール・トラム / 平渓線 |
研究実績の概要 |
日本と英国における鉄道遺産を活用したツーリズムの形成過程とその構造を調査することが本年度の目的であった。この目的を遂行するため、第1に鉄道とヘリテージ・ツーリズムの概念整理(以下、A)、第2に辰野金吾の東京駅丸の内駅舎設計思想に関する資料収集と考察(以下、B)、第3にジョージ・ギルバート・スコットのミッドランド・グランド・ホテル設計思想に関する資料収集と考察(以下、C)、第4に英国ブラックプール市交通局でのヒアリング(以下、D)、第5に台湾・平渓線に関する台湾鉄路管理局へのヒアリング(以下、E)を実施した。 Aについては、景観の種類(自然、田舎、文化、都市/建造)と鉄道サービスの生産要素(車両、エンジン、線路・軌間、駅舎、信号機など)の2つの視点から概念の整理をした。両者の組み合わせが遺産的価値を創出し、ヘリテージ・ツーリズムにつながっていくことが認識できた。Bについては、美術建築という思想が東京駅丸の内駅舎に反映されていることがわかった。Cについては、ゴシック様式という教会建築に使用される様式が駅舎に使用されていることがわかった。BとCは駅舎の遺産的価値が公的な制度として認められているだけでなく、観光資源としての価値も有している点が明らかになった。Dについては、ブラックプール市とその市民が英国最古のトラムと街自体に遺産的価値を見出し、観光資源として活用していることが確認できた。Eについては、沿線の景観と駅舎の保存が鉄路管理局と地域住民によって実施されていることが確認できた。 AからDの事例をみると、景観の種類と鉄道サービスの生産要素の組み合わせが異なっている。しかし、現時点における社会が保存を望む過去の要素であること、換言すれば、ツーリズムとしての観光対象になりうる遺産的価値をもっていることは共通している。以上の点が明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体の作業を6つに分けて以下に記していく。1点目の鉄道とヘリテージ・ツーリズムに関する先行研究を通じた概念整理は2019年10月までに完了し、研究分担者と共有できた。2点目の東京駅丸の内駅舎を設計した辰野金吾の思想についても必要な資料を収集できた。3点目のセントパンクラス駅併設のホテルを設計したジョージ・ギルバート・スコットの思想についても関連資料を収集できた。4点目の台湾・平渓線のヒアリングも実施できた。ここまで4点は順調に推移した。5点目のブラックプール・トラムのヒアリングは当初のローカル・ヒストリー・センターからブラックプール市交通局に変更したうえでヒアリングを実施し、必要な資料も収集できた。6点目の鉄道博物館と江ノ島電鉄については、一部の資料収集を実施した。残る資料収集は次年度を予定している。以上のように、当初の計画の大部分が達成できている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、英国のライドにある鉄道遺産協会と英国ヨークにある国立鉄道博物館でのヒアリングと資料収集を予定している。また、日本の鉄道博物館と江ノ島電鉄でのヒアリングと資料収集を計画している。 鉄道遺産協会とは、鉄道とヘリテージ・ツーリズムの視点から保存鉄道を運行している鉄道会社の事務局である。事務局は各鉄道会社の持ち回りとなっている。同事務局で保存鉄道の組織構成や組織運営などのヒアリングを実施したい。国立鉄道博物館とは、英国の歴史的な鉄道サービス生産要素を保存しているだけでなく、関連する資料や書籍を蔵書として保管している組織である。同博物館では、ノース・イースタン鉄道が設立した鉄道博物館が国立鉄道博物館へと組織再編されていった過程などについてヒアリングや資料収集を実施する予定である。さらに、日本の鉄道博物館と江ノ島電鉄に関しても、ヘリテージ・ツーリズムの視点から引き続き資料収集などを実施していく。 しかしながら、COVID-19によるパンデミックの影響で、上記の予定が遂行できないことも想定できる。特に英国での調査は困難な状況といえる。万が一、航空機が運航していないなどの理由で国外調査などが実施できない場合、2020年度の計画を変更したい。すなわち、2020年度の予定を2021年度に繰り越して、その代わりに2019年度に実施したヒアリングや資料に基づく考察の深化を図っていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
為替レートによる書籍代の誤差による。
|