研究課題/領域番号 |
19K12562
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
藤井 秀登 明治大学, 商学部, 専任教授 (90308057)
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研究分担者 |
老川 慶喜 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (10168841)
恩田 睦 明治大学, 商学部, 専任准教授 (50610466)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クロノトポス / 広島電鉄株式会社 / ブラックプール・トラム / ヘリテージ・ツーリズム / カーニバルの境界性 |
研究実績の概要 |
第1に、ヘリテージ・ツーリズムをクロノトポスの視点から考察した。クロノトポスとは、現実に存在する対象を統一された時間と空間として認識する概念である。これは表象対象の世界と表象された世界とを結びつけ、認識者の臨場感を高める。ヘリテージ・ツーリズムは、相互に関連しあう文化(時間)的、場所(空間)的、ビジネス(観光商品)的な領域から構成されている。このため、観光客は視知覚を通じて、その商品化されたヘリテージを実際に経験できる。つまり、観光客は自身のクロノトポスを介して商品化されたヘリテージと対話している。 第2に、以上のクロノトポスの概念を踏まえ、広島電鉄株式会社(広電)の路面電車、特に3両だけ残存する被爆車両を原爆ドームに関連させながらヘリテージ・ツーリズムとして考察した。まず、被爆車両と原爆ドームをヘリテージと位置づけた。続いて、被爆車両を管理・運行する広電をヘリテージ・ツーリズムの催行者とみなし、被爆車両運行の意義を検討した。この結果、世界遺産でもある原爆ドームと、主に朝の混雑時に運行されている被爆車両が、被爆という時間的次元、および一部で同じ景観に収まるという空間的次元で、観光客に統一した認識を与える対象になりうる点を実証的に明らかにした。 第3に、同様にクロノトポスの概念を用いて、イギリスのブラックプール・トラムを考察した。ブラックプール・トラムが運行するヘリテージ車両が、路線沿線の主な歴史的建造物の時間的次元と空間的次元において、観光客に統一した時間と空間の認識を与える対象になりうる点を実証的に示した。 第4に、ブラックプール・トラムが催行するヘリテージ・トラム・ツアーをイベントとして捉え、特にカーニバルの境界性の視点から考察した。同イベントが日常生活と脱日常生活の結節点になること、すなわちホストとゲストの両義性を生み出す構造を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのため、イギリスにて鉄道遺産協会と国立鉄道博物館の関係者にヒアリングすること、現地で新たな資料・史料を収集することを断念した。 そこで、国内に視点を変え、広島電鉄株式会社が運行する路面電車の被爆車両と原爆ドームに関する資料・史料を国内で新たに収集した。これ以外は、2019年度に収集したイギリスのブラックプール・トラムが運行するヘリテージ車両と沿線の歴史的建造物に関する資料・史料の再利用、さらにインターネットでブラックプール・コーポレーションに再ヒアリングを実施した。これら広島とブラックプールの路面電車、および沿線の景観との関係を把握するため、統一した時間と空間の認識すなわちクロノトポスの概念を導入した。こうした新旧の資料・史料と新たな概念的枠組みを用いて、研究は継続できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、疫学的、制度的な状況が許すようであれば、イギリスの鉄道遺産協会と国立鉄道博物館の関係者に実際に面会し、ヒアリングを実施したい。また、資料や史料の収集もしたい。ただし、渡英に伴なう隔離措置が緩やかになったとしても、新型コロナウイルス感染症の拡大状況によっては現地調査を中止する判断をせざるを得ない可能性がある。このため、依然として当初に計画したヘリテージ・ツーリズムの制度や政策に関するイギリス側資料・史料を入手しにくい状況も予想される。 そこで、第1に既存の資料・史料を再利用すること、第2にインターネットで出来るだけ関連する文献などを収集すること、第3にヘリテージ・ツーリズムに関する理論的な解明に資する概念枠組みを新たに深化すること、これら3点を中心に研究を継続していく。 本年が最後の研究年度になる。しかし、不測の事態も予想されるため、柔軟な研究方法を採用しながら、当初の研究予定に近づけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスにて現地調査を実施の予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大による渡航制限や隔離措置のため、渡英調査を断念したためである。 本年度は、可能ならば、渡英調査の費用に充当する。また、パソコンや書籍の購入にも支出を予定している。
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