研究課題/領域番号 |
19K12576
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鳥畑 与一 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60217594)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統合型リゾート(IR) / カジノ / ギャンブル依存症 / ギャンブルの経済効果 |
研究実績の概要 |
昨年度は新型コロナ感染の影響で予定していた海外調査を実施することができなかったが、初年度の米国マサチューセッツ州調査の成果のまとめや国内におけるIR誘致自治体の調査やコロナ禍のもとでの世界のカジノ市場の動向調査を行ってきた。その成果としては、「もうカジノの話は終わりにしよう」(雑誌『世界』2020年4月号)などで公表を行った。これはコロナ感染が始まる前のカジノ市場の分析が中心であるが、マカオ市場の高収益を前提にし巨大施設を建設し集客を行うIRカジノのビジネスモデルがギャンブル依存症をいかに増大させていく誘因を内包したものであるかを分析し明らかにしたものである。 また「IRカジノという衰退産業」(自治体問題研究所『住民と自治』(2020年12月号)では、コロナ禍のもとでの米国やマカオ、シンガポール等でのカジノ市場やカジノ企業の経営分析を通じて、いわゆる巨大なハコモノと料金サービスでの誘客に依存したIRカジノのビジネスモデルが大きく壁にぶつかっていること、カジノ市場がオンライン・カジノに急速に依拠しており、長期的には衰退産業になりつつあることを指摘した。 また日本地域経済学会第32回横浜大会(12月6日)の共通論題シンポジウムでは「IRカジノは地域経済活性化の切り札になるのか」をテーマに報告を行なった。これは横浜でのIR誘致に焦点を当てて、IRを通じた地域振興策がいかに大きな問題を抱えているのか、カジノ収益に依存しない統合型リゾートの可能性をしてきたものである。その成果を学会誌『地域経済学研究』第41号に掲載することとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度のマサチューセッツ州のカジノ市場調査に続いて、オーストラリアやマカオ等のカジノ市場調査を行い、IRカジノが地域振興で果たしている役割の分析を行う予定であったがコロナ禍で中断を余儀なくされている。さらにコロナ禍でのカジノ市場の収益構造の変化やカジノ企業のビジネスモデルの変容が進んでいるため、国際会議展示施設いわゆるMICE型のIRの持続可能性やオンライン化・デジタル化の影響の分析が重要となっている。 また大阪府市、横浜市、長崎県、和歌山県など現に誘致政策を進めている自治体においても、区域整備計画を申請予定の企業の質が大きく変化しており、それらの企業が提示する区域整備計画等が実際に地域経済の持続可能な信仰に貢献するのかどうかの具体的分析が求められるものと思われる。 コロナ禍の終息を展望しつつ、海外の調査についてはオンラインの活用を含めて対応しつつ調査を進めて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
IRカジノの地域経済に影響については現地での様々な関係者へのヒアリングも含めた調査が重要である。現にマサチューセッツ州調査ではカジノ管理委員会のヒアリングだけではなしに現地の市民団体との交流を通じて、公表されている文献やデーターでは知ることのできない知見を得ることができた。 現在、コロナ禍の影響でいわゆる地上の巨大施設に集客してカジノで収益化し、それで様々なエンターテイメント施設を支える従来のビジネスモデルが大きな変容を迫られている。大阪進出が有望視されていたMGMエンターテイメントはオンラインカジノやオンラインでのスポーツ賭博への戦略的投資を行っている。また世界最大のカジノ企業であったラスベガスサンズは日本撤退を声明する一方でラスベガスのカジノ施設を売却するなどの事業転換を進めている。日本の成長戦略としてのIRそのものが大きく性格を変えつつある中で、日本の今後の観光戦略や地域経済振興を考えた時に、どういうIRが必要なのかの再検討が必要となっている。アフターコロナ後のカジノ市場の変化を展望しつつ、日本型IRの地域経済との関りを探求していきたい。このため本年度は地域調査を重視して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナパンデミックの発生で予定されていた海外調査の実施が困難な状況が続いているほか、国内においても区域整備計画の申請期間の延長やカジノ管理委員会の基本方針や施行規則等の確定が遅れているため、国内においても調査研究を十分に行えない状況が続いたため。コロナ感染状況を見ながら、内外の現地調査のための旅費や資料代として次年度使用する予定である。
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