本研究は、観光地において中・長期的なタームで起こる観光需要の変動である「観光地のライフサイクル」仮説と、短期的な観光需要である季節変動が観光地と観光地自治体の財政に与える影響に注目し、その実態を明らかにするとともに、「持続可能な観光地」の実現に向けた観光地自治体の財政的基盤を検討することを目的に取り組んだ。2023年度は研究の成果を報告し、公表することを中心に取り組んできた。第1に、本研究で取り組んできた研究の成果の一端を市民向けの公開講座の講義の中で公表し、参加者の皆さんと議論した。講義では、本研究を通じて把握した観光地である伊豆地域の特徴として、観光客数と地域内総生産額に強い相関関係があること、前者と財政力指数に弱いながらも相関関係があることを示した上で、「観光のダイナミズム」を経験する観光地では観光振興を図り続けることが必要でありながらも、需要が変動する観光は財政的基盤が十分ではないことから、「観光+α」を同時に追求することが重要であること、その一環として住民にとって住みよい地域づくりを図ることが重要であることを指摘し、観光振興に限らない観光地経営のあり方を提案した。その内容について参加者からは賛同を得るとともに、その内容について質疑を行った。第2に、観光地財政の調査を進める中で把握してきた地方行政のデジタル化の取り組みを検証する研究の成果を英文論文としてまとめ、オーストリアのウイーン大学が刊行する雑誌に投稿した。その後、査読を経て加筆修正を施した上で採択された。論文では、地方行政ではデジタル化が急速に進みながらも、行政サービスを必要とする生活困窮者には対面によるサポートと包括的な支援体制が必要であり、対面によるサポートを核にしてデジタル化を図ることだけが追求されてはならないことを議論した。論文執筆の際には共同研究に取り組んできたドイツ・ボン大学の研究者とも議論した。
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