研究課題/領域番号 |
19K12593
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
吉田 竹也 南山大学, 人文学部, 教授 (10308926)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 観光リスク論 / 観光サバルタン / 観光恐慌 / 世界自然遺産 / 楽園観光地 / バリ / 奄美・沖縄 |
研究実績の概要 |
本研究は、4つの課題からなるものだった。①観光リスク論の理論的探求。リスクの自己生産性の問題を、楽園観光という観光形態との関連において検討する。②観光リスク論を「観光サバルタン」に着目しつつ、ライフスタイル移住論を手掛かりに進める。バリ島と沖縄、また両地での移住を断念した人々などを含むデータを収集し、観光地に生きる人々の生のリスクを微視的視点から浮き彫りにする。③複数の類似の観光地の間の関係メカニズムから来る観光リスクの発生について検証し、論を展開する。④観光概念を動態論的視座から更新する。 実績としては、①について、コロナウイルス禍における世界的な観光不況を「観光恐慌」として捉え、観光地バリの状況について論じた研究ノートをまとめた。②については、島嶼学会要旨集に短い学会発表要旨の掲載がかなった(『2020年次日本島嶼学会要旨集』日本島嶼学会、2020年12月、pp.25-26)。③については、島嶼学会誌に、奄美・沖縄の4島地域(奄美大島、徳之島、沖縄本島北部やんばる地域、西表島)の世界自然遺産候補地とその周辺地域における、世界遺産記載後の観光のあり方についてのリスク論的考察を、研究ノートをまとめた。④については、現在論文の構想を練っている段階である。ほかに、⑤バリに関する民族誌的記述をまとめ、この中に①②に関わる論点を入れ込む作業を進めている。 以上のように、研究実績は着実に積み重ねることができている。コロナ禍ゆえのデスクワークの進捗の賜物と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目の2020年度は、新型コロナウィルス感染対策の影響によって夏季の海外渡航ができず、研究計画の遂行におおきな支障があった。上記「研究実績の概要」の②③は、バリ島と沖縄における現地調査・資料収集の進捗にかかっていたが、バリ島出張は断念した。代わって夏に2回奄美・沖縄方面に出張し、その成果をまとめた。とはいえ、対面調査については慎重を期すべきと判断し、本研究の要となるインタビュー調査は博物館や行政庁などにおけるものに基本的にとどめ、あとは短い時間での現地の人々とのやり取りによってこれを補う、という方法とした。徳之島や西表島は、船での渡航は可能であったが、感染リスクに鑑みて断念し、奄美大島と沖縄本島での資料収集にとどめた。バリについては、SNSにより現地在住の日本人・バリ人と可能な範囲で若干のやり取りをするにとどまった。SNSでの情報収集は、親交と信頼関係のある少数の情報提供者との間での量的質的に限定される内容となるため、バリに関するデータ収集は、今後の課題とせざるをえない。 「研究実績の概要」に示した4つの課題のうち、①の観光リスクの自己生産性については、研究初年度の2019年度に刊行した合理化を主題にした単著においてある程度まとまった形にした。そのため、2020年度以降は②以下が取り組むべき課題であった。この中で、②③④は相当程度進んだ。デスクワークの進捗と、成果の刊行が予想以上に進んだためである。コロナ禍においてフィールドワークは十分進められなかったが、以上を総合的に勘案した結果、おおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの収束は日本でもインドネシアでもまだ見通しが立たない。バリでの資料収集は今年度も難しいと考えている。沖縄方面でも、自由に行き来して資料収集を行えるという状況には至らないであろう。可能な範囲で沖縄方面での資料収集を行い、あとはデスクワーク中心に作業を進めたい。 研究実績の概要に示した4つの課題のうち、①は2019年度に、②③は2020年度に、それぞれ成果を刊行し、一定のめどをつけることができたと判断している。④については、観光概念の定義に関する理論的研究を論文に結実させたい。また、加えて、バリに関する民族誌的記述をまとめ、この中に①②に関わる論点を入れ込みたいと考えている。これらを成果としてまとめることが、2021年度の目標である。 ほかに、2021年7月に予定される奄美・沖縄のユネスコ世界遺産記載の成否に注目しつつ、③に関する補足的な資料収集・調査を行いたい。複数の類似の観光地の間の関係メカニズムから来る観光リスクの発生の検証という当初の主題の枠組みからはややずれていくが、奄美・沖縄の4つの地域にまたがる世界自然遺産観光に関する観光リスク論的考察を、当該研究ノートを更新する方向でひきつづき考察したい。 本研究の全体構想を鋭意検討しているが、現状では、観光サバルタンという観光主体に関連して、バリの日本人移住者に関するデータをコロナ収束後に追加し、まとめていければと考えている。そして、新たな課題として、沖縄のひめゆり平和祈念資料館を取り上げ、入館者・観光者減の中での、そして沖縄戦の記憶が薄れゆく中での、平和学習観光や、霊域の観光地化について考察できないかと考えている。以上のような課題を遂行しつつ、本研究の最終目標である単著の議論構想を練っていく作業を進めることが、2021年度の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、当初計画していたバリ島での調査・資料収集を遂行することができなかった。今年度、可能であればこれを遂行したいと考えるが、仮に2021年度もインドネシア渡航が難しいという場合は、2022年度にバリ島での調査・資料収集を行う計画である。
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