研究課題/領域番号 |
19K12593
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
吉田 竹也 南山大学, 人文学部, 教授 (10308926)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 観光リスク論 / 観光サバルタン / 観光の定義 / 世界自然遺産 / 楽園観光地 / バリ島移住者 / 奄美・沖縄 / ひめゆり同窓会 |
研究実績の概要 |
本研究は、4つの課題からなるものだった。①観光リスク論の理論的探究。リスクの自己生産性の問題を、楽園観光という観光形態との関連において検討する。②観光リスク論を「観光サバルタン」に着目しつつ、ライフスタイル移住論を手掛かりに進める。③複数の類似の観光地の間の関係メカニズムから来る観光リスクの発生について検証し、論を展開する。④観光概念を動態論的視座から更新する。 ①と④については、これらを連関させてまとめ、観光の定義の困難さを論じる論文を作成中である。これは2022年度に刊行の予定である。②については、前年度に整理したグラムシの論点を相対化し、フーコーの支配概念を組み込んで再整理するという着想を得た。今後その方向で研究を進める。ライフスタイル移住に関しては、SNSを通して、バリ島の移住者に関する若干のデータを収集した。これは、2021年度刊行の単著にも組み込んだ。③は、新たな研究視角を得ることを目論みとした課題設定であったが、新型コロナウイルス感染拡大により、2020年度・2021年度と、思うような資料収集活動が国内・国外ともにできなかった。とくに、インドネシア・バリ島での資料収集の進展が、今後も見込めない可能性があるため、この③を議論として展開することは断念する方向で考えている。ただし、他方で、奄美・沖縄の4島地域が2021年7月に世界自然遺産となったことを受け、この世界遺産と観光の関係を、複数の類似の観光地(候補地)を対象とした観光リスクの考察という観点から、デスクワークを中心にまとめるという方向で、議論を組み立てることにした。 以上のように、2021年度は、文献研究は順調に進んだが、全体の研究の方向性を一部修正し、練り直す方向で研究を進めることとなった。ひきつづき資料の取りまとめと、全体の議論の構想を練って、ひとつの研究へとまとめる作業を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染拡大により、2020年度と2021年度、国内・国外での資料収集作業がはかどらない状況がつづいている。これにより、当初予定していた研究の一部に遅滞が生じてもいる。しかし、コロナ禍の収束がまだ見通せない状況においては、これを致し方ないと受け入れつつ、現状において可能な軌道修正をはかるしかないと判断した。 2021年度には、こうした判断から、「研究実績の概要」欄にある課題③を組み替えた。つまり、当初予定していた方向での課題の追求を断念し、奄美・沖縄の世界自然遺産と観光の関係(ただし、これは、課題候補として申請時点から念頭には置いていた)を、本研究を構成する課題の柱のひとつに設定したのである。また、「研究実績の概要」欄では触れなかったが、沖縄のひめゆり同窓会の活動を、課題のひとつの柱に組み込んで、全体の議論構想を練る方向で検討するようにもなった。このように、新たな民族誌データを収集し議論を前進させるという観点からすれば、順調には進まなかったが、当初の予定を変更しつつ、先行研究やウェブサイト・SNSなどのデータをも適宜用いながら、必要な質量の民族誌的データを整理し、議論構築を進めるという作業は、一定程度順調に進んでいると考えている。 理論研究・デスクワークは、コロナ禍でフィールドワークとその資料整理に充てる時間が予定よりもやや少なくなったことにより、むしろ予定よりも進んでいるように思われる。 このように、トータルでみれば、複数の課題を設定し、それらを同時並行的に進めながら、全体をひとつの議論としてまとめ上げていくという、本研究の計画の遂行は、コロナ禍にあっても、何とかおおむね順調に進められてきたと考える次第である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの収束にはまだ時間がかかるという前提で、当初の予定よりもデスクワークの比重を高め、研究の収束をはかる。必要に応じて、科研費の補助事業期間延長の申請も視野に入れたい。 「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」欄で述べたように、本研究を構成する4つの課題を当初計画から組み替える。①観光の定義の困難さを論じる理論研究、②奄美・沖縄の世界自然遺産と観光の研究、③ひめゆり同窓会の活動を観光論の視点から再検討する研究、④バリ島の日本人移住者の観光リスクを考察する研究、である。そして、これらを観光リスク論や「観光サバルタン」といった切り口から総合する。2022年度は、この方針の下、それぞれの議論構築や議論修正をはかっていく。なお、こうした組み換えをしても、本研究の大枠の課題設定が変わるわけではない。 この中で、①は現在論文作成を進めている。②は、2021年の研究ノートを修正し、世界遺産記載を含めたその後の経緯などを補っていく。③は、非営利組織研究という観点から2019年に刊行した拙論を、観光との関係という別の視点からまとめ直す作業に取り組む。④は、2019年に刊行した拙論をあらためて「観光サバルタン」への着目という視点から再整理し、可能な範囲でデータを補充する。 2019年度からスタートした本研究は、これまで毎年成果を刊行し、全体の部分に当たる議論の構築を前進させてきた。今後は、①の成果を刊行するとともに、いよいよこれらを総合する作業に取り組む。なお、付言すれば、2021年度には、非正規雇用の増大を中心とした日本人の労働環境の変化と格差拡大について調べ、これを観光という余暇活動につなげる可能性を検討したが、両者の関係を明確化するデータや議論にはたどり着けず、労働環境・収入・格差といった論点から観光を論じるという目論見は、見送ることにした。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、当初計画していたインドネシア・バリ島での資料収集を見送った(国内の沖縄での資料収集は実施した)。また、参加を予定していた学会がオンライン開催になるなど、研究出張に充てる予定の支出が伸びなかった。 2022年度には、コロナウイルス感染状況を慎重に判断しつつ、可能であれば、バリ島での資料収集を行いたい。また、ひきつづき国内での資料収集や、学会参加による広い視野での着想の獲得に努めたい。
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