本研究は、4つの課題からなるものだった。①観光リスク論の理論的探究。リスクの自己生産性の問題を、楽園観光という観光形態との関連において検討する。②観光リスク論を「観光サバルタン」に着目しつつ、ライフスタイル移住論を手掛かりに進める。③複数の類似の観光地の間の関係メカニズムから来る観光リスクの発生について検証し、論を展開する。④観光概念を動態論的視座から更新する。 ①と④については、これらを連関させてまとめ、観光の定義の困難さを論じる論文を作成し、2023年3月に刊行した。②については、グラムシの議論をベースに、「観光サバルタン」概念について暫定的な考察をまとめた。また、ライフスタイル移住に関しては、2023年2月~3月と8月~9月にバリ島に赴きデータを収集した。③については、前年度の本報告でも触れたように、新型コロナウイルス感染拡大によって思うような資料収集活動が国内・国外ともにできなかったため、議論としておおきく展開することは断念することにした。ただし、複数の類似の観光地の間の関係メカニズムから来る観光リスクの発生という着想から若干ずれるものの、奄美・沖縄の4島地域が2021年7月に世界自然遺産となったことを受け、この世界遺産と観光の関係を、これら4つの類似の観光地ないし観光候補地を対象とした観光リスクの考察という観点から、世界遺産申請書類・会議記録と若干のフィールドワークのデータを組み合わせ、議論をまとめた。 以上の成果をまとめ、2023年6月に「周縁観光論」というタイトルで、南山大学人類学研究所から単著として刊行し、ウェブで公開した。全体の議論の構想を、ひとつの研究へとまとめる作業を最終目標としていたが、これを2023年度内に実行することができた。
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