研究課題/領域番号 |
19K12594
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
阿部 大輔 龍谷大学, 政策学部, 教授 (50447596)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オーバーツーリズム / 包摂的観光 / 国際的観光都市 / 宿泊施設 / 都市組織 / 観光マネジメント / DMO組織 / fairbnb |
研究実績の概要 |
2019年度は、「オーバーツーリズムの観点から見た対象都市のこれまでの観光地化ならびに都市再生政策の系譜の把握・再評価」を目標に、研究調査を展開した。主たる内容は以下の通りである。 (1)国際的観光都市におけるオーバーツーリズムの事例を収集し、データベースを作成した。(2)バルセロナにおける無秩序な観光の進展に抵抗する合計28の住民組織を束ねるプラットフォームである「持続可能な観光を考える住民協議会(ABTS)」(現在は「観光の縮小に向けた住民協議会(ABDT)」に改名)の定例会に出席し、住民の視点から見た問題点の把握ならびに住民から発信する対抗策の論理構築について知見を得た。(3)バルセロナ旧市街ゴシック地区の住民とともに写真を用いながら地区の抱える観光の問題を整理し、提案にまで結びつけていくワークショップFotoveu del Goticの実態について、バルセロナ市公衆衛生局にインタビューを実施し、地域住民の健康の観点からオーバーツーリズムの課題に迫る方法論について知見を得た。(4)バルセロナ市都市計画担当副市長(Janet Sanz)ならびにバルセロナ市都市戦略プラン2020の元担当局長にインタビューを実施し、宿泊施設抑制プランPEUATの政策決定のプロセスや実践上の課題について新たな知見を得た。(5)ベルリンのDMO組織Visit Berlinを訪れ、Berlin Torusim Plan 2018+の理念と実践について担当局長にインタビューを実施した。オーバーツーリズムの諸問題に対し、規制的アプローチだけでなく、プロモーションの新たなアプローチによって解決を図る方法の可能性が示唆された。(6) 適正な価格かつ地域への還元を図る宿泊施設の流通を目的としたfairbnbの理念と実践の現状を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Covid-19の蔓延により、年度末に予定していた現地調査が実施できなかったものの、オーバーツーリズムをめぐる国内外の観光都市のデータベースを作成したこと、これまでの研究で調査蓄積があったベネチアとバルセロナについて最新の情報を把握しオーバーツーリズム対応策の都市計画的試みについて考察を進められたこと、プロモーション志向でオーバーツーリズムの諸課題への対応を図るベルリンの取り組みについて考察を進められたこと、オーバーツーリズムに悩む都市間の住民が主体的に連携し地域還元型の宿泊施設の流通を図るfairbnbの活動を把握できたこと、等から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
各都市の観光政策の歴史的展開を把握するとともに、オーバーツーリズムの様相を地域コ ミュニティにおける「宿泊施設の立地」「地価の変動」「都市組織の変容」の観点から解明する。一連の観光活動の展開による既存コミュニティの変化の様態に常に焦点を置き、強い観光地化の圧力を背景に地区の居住機能や商店の構成に大きな変化が出た結果、地区レベルの居住環境が低下する「場所の低俗化」の発生の程度を特定する。2020年度内に現地調査が実施できるかは不確定だが、これまでに構築した人脈を生かし、オンラインでのインタビューを可能な限り実施し、covid-19の蔓延により国際的にも大幅な軌道修正を迫られる観光の現状を踏まえたポスト・オーバーツーリズムの政策論を議論する新たな視点を見出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月、3月に2週間の予定でバルセロナならびにベネチアでの現地調査を実施予定だったが、新型コロナウィルスの世界的な蔓延により渡航が中止になり、海外調査および現地での書籍購入、謝金、資料等の郵送等に計上していた支出が不可能となったため。
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