研究課題/領域番号 |
19K12594
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
阿部 大輔 龍谷大学, 政策学部, 教授 (50447596)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オーバーツーリズム / 包摂的観光 / 国際的観光都市 / 宿泊施設 / 観光マネジメント / DMO組織 / fairbnb / 都市組織の変容 |
研究実績の概要 |
2020年度は、「オーバーツーリズムが惹起する《場所の低俗化》に対する住民の自律的な取り組みならびに行政の都市政策上の対応の把握と検証」を目標に、研究調査を展開した。主たる内容は以下の通りである。 (1)具体的な研究対象であるヴェネツィア、バルセロナ、ベルリン、アムステルダム、パルマ・デ・マジョルカ、京都における観光政策の歴史的展開を都市政策との関わりから把握した。(2)対象都市の中からヴェネツィア、バルセロナ、ベルリン、京都におけるオーバーツーリズムの様相を「宿泊施設の立地」「地価の変動」「都市組織の変容」の観点から記録・分析した。(3)行政による政策的対応として、ヴェネツィア市観光ガバナンスプラン(2017年)、旧市街用途プラン(2018年)、観光戦略プラン2020(2016年)、観光宿泊施設抑制プラン(2017年)(以上、バルセロナ市)、ベルリン観光コンセプト2018+(2017年)、京都市観光振興計画2020+1(2018年)等を詳細を取り上げ、規制・誘導の具体的な措置を分析することで、政策としての論理構造を明らかにした。(4)住民からの対応として、対象都市における住民運動の経緯と具体的な提案内容を把握し、オーバーツーリズムが界隈レベルでどのような問題をもたらしているのかについて明らかにした。(5)適正な価格かつ地域への還元を図る宿泊施設の流通を目的としたfairbnbの活動に着目し(昨年度のからの継続)、代表の一人であるEmanuele Dal Carlo氏へのインタビューを通して、共同所有・共同運用・透明性・地域コミュニティへの還元のコンセプトの実際の枠組みへの実装の程度について把握した。 研究成果は、関連学会の各種報告や専門誌への論考、複数にわたる書籍を通して公表してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Covid-19の世界的蔓延により当初予定していた欧州諸都市の現地調査の実施が叶わなかったものの、前年度までに構築した各都市の主要アクターと継続的に交流することで実態の把握に努めた。本研究の対象都市もパンデミックの影響を受け、観光活動が凍結状態に陥っていたため、現地でのフィールド調査を重視するのではなく、オンラインを通した限定的なやりとりになったもののポスト・パンデミックに向けた行政・住民の議論の把握しようと試みた。その成果物として、2020年12月に編著『ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略』(学芸出版社)、共著『コロナで都市は変わるか 欧米からの報告』を出版することができた。以上から、「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの調査を整理し、観光地化がもたらした空間構造・社会文化構造の変容をより実証的に明らかにするとともに、オーバーツーリズムの現象に歯止めをかけ、持続可能な観光空間を実現するための計画ツールの可能性を考察する。
研究調査対象都市において、都市空間のテーマパーク化と地区コミュニティの協働の程度の差を特定し、観光活動を制御するアプローチが都市の持続性を担保し、地域経済や雇用を含めて住民の総合的な生活の質の向上に寄与しうることを明らかにする。最後に本研究の総括として、行き過ぎた観光地化の問題を現代の都市政策論の潮流の中に位置づけ、その状況を批判的に考察するとともに、観光政策と都市政策の計画手法的統合の可能性を多角的に検証することが主眼となる。
2021年度もcovid-19を取り巻く情勢は先行き不透明であるため、海外でのフィールド調査の実施が容易ではない可能性も踏まえつつ、本研究の実施過程において関係を築いてきた研究者、行政の担当職員、住民組織の構成メンバーとのオンラインを通した情報交換や議論の頻度をより高くすることで、パンデミック後の観光の展開に向けて、オーバーツーリズム時代の教訓がどのように共有され、新たな方針として議論されているのかについて把握するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19の蔓延により、年度内に複数回にわたり予定していた海外での現地調査が実施できなかったためことが大きな原因である。2021年度もcovid-19を取り巻く情勢は先行き不透明であるため、海外でのフィールド調査の実施が容易ではない可能性も踏まえつつ、オンラインで開催されることが見込まれる複数の国際学会への論文投稿ならびに発表、英語論文・スペイン語論文の作成のかかる経費、本研究の実施過程において関係を築いてきた研究者、行政の担当職員、住民組織の構成メンバーとのオンラインを通した情報交換や議論の際の謝金等に支出を広げつつ、研究を遂行していく。
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