研究課題/領域番号 |
19K12603
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
大橋 史恵 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 准教授 (10570971)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 香港 / 再生産領域 / 金融領域 / グローバル・シティ / 家事労働者 / ケア / ジェンダー |
研究実績の概要 |
2019年度は(A)香港における政策・法の変化と移住女性の労働力配置について、(B)香港における「生産者サービス」の変化について研究を進めた。 まず香港の分野別の就労人口を把握する統計データをもとに、製造業中心から金融・貿易中心の就労構造への移り変わりがジェンダーとどのように関わっているかをとらえた。9月にはS・サッセン『グローバル・シティ』を再読する読書会を開催し、香港のこうした就労構造の変化を「グローバル・シティ」論に照らしてどう理解することができるかを議論した。 10月末から11月初旬にかけて香港を訪れ、今後のインタビュー調査のための打ち合わせやヒアリングを実施するとともに、現地のアーカイブにおいて資料収集を行った。 香港中央図書館、香港歴史トウ案館等において、1960年代から今日に至るまでの本研究に関連する新聞記事や労働争議の資料を収集することができた。この資料調査では1960年代半ばという早い時期に「香港女傭工工會」(香港メイドユニオン)というローカルな家事労働者の組合が活動していたという事実をおさえることができた。また1970年代にフィリピン人家事労働者の受け入れを始めるにあたって香港でどのような議論が行われていたかを示唆する新聞記事の数々を収集することができた。いずれも非常に貴重な資料であり、今後の研究で十分に活用していきたいと考えている。 なお今年度の研究の成果については、2020年2月に出版された『家事労働の国際社会学』(伊藤るり編著、人文書院)の第4章「香港社会の家事労働者――『中国』と『外国』の狭間における分断と連帯」において部分的に発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究は、家事労働者の状況について詳しい現地のアクティビストや研究者に対して部分的にヒアリングを行った以外は、資料調査を中心としたものになった。本研究の中心課題は、移住家事労働者と雇用者のオーラル・ヒストリーの収集を行うことによって達成されるべきものであったが、6月以降の「反送中」など民主化運動の高まりと1月以降の新型コロナウイルス感染症拡大の懸念において、安定した調査協力を得ることが困難であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の影響によって国境を越えた移動自体に制約があるため、香港におけるオーラル・ヒストリーの収集は、見送らざるを得ないと考えている。ただし2019年度中に香港現地のアーカイブから1960年代~1980年代の貴重な新聞記事や労働争議に関連する資料を得られたことを受け、オーラル・ヒストリーとは異なるアプローチによって研究課題に取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2月から3月にかけて香港でライフヒストリーの聞き取りを実施する予定だったが、1月頃にはすでに新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念されていたことを受け、計画をとりやめた。このため旅費分に大幅な余りが出た。この分は研究で用いる資料や物品の購入に充てたが、使い切るには至らなかった。
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