研究課題/領域番号 |
19K12603
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
大橋 史恵 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 准教授 (10570971)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 香港 / ジェンダー / 家事労働者 / 広東省 / フィリピン / 労働組合 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため、香港への現地渡航がかなわなかった。このため、本来予定していた移住家事労働者と雇用主を対象にした「ケアの記憶」についてのインタビュー調査は断念し、(A)政策・法の変化と移住女性の労働力配置(B)香港における「生産者サービス」についての課題に焦点をあて、資料調査を中心に研究を進めた。 課題(A)については、2019年度に現地で収集した新聞記事に加えて、新たにオンラインデータベースを通じて1950年代から1990年代までの新聞記事(『華僑日報』『香港工商日報』『工商晩報』『大公報』など)を収集しそれらを精査することで、香港の社会経済構造が変化していく過程において中国広東省に出自をもつ女性たちや、フィリピン等の外国人女性たちが家事労働者としてどのように出現しているかについて検討した。こうした新聞記事から得られた知見については、現時点ではまだ整理の途上にあるが、広東省出自の家事労働者の所得水準が向上していることや、彼女たちが老後の安養の場をどこにもとめているかということが話題になるのと同時期に、フィリピンの家事労働者の導入が浮かび上がっており、香港において再生産領域における移住労働力を確保するための道筋がどのように段階的に進められたかを把握できそうな見通しがある。さらに、2019年度の現地調査において確認した家事労働者の労働組合について、関連する新聞記事やアーカイブに収録された資料を読み込み、当時の香港社会において中国広東省の家事労働者がどのようなアソシエーションを形成し得たのかについて理解を深めつつある。 課題(B)については、金融のグローバル化の文脈をより理解することが必要になるため、(A)と並行して新聞記事を中心に資料を収集し、香港経済の変化において「生産者サービス」にどのように移住女性が関わっているかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、当初の計画において、香港社会に暮らす人びとの記憶について聞き取り調査を行うことで、1960年代から90年代の香港において、広東省出身家事労働者からフィリピン人家事労働者への転換がどのように起きたのか、そのことをケアの受け手と担い手がどのように経験したのかを把握することを想定していた。この調査の対象者の多くは高齢の香港人であるため、調査者自身が香港に数週間滞在し、広東語の通訳を介して対面で調査を実施する必要があった。 この聞き取りは主に2020年度に実施予定であったが、新型コロナウイルス感染症のために実際にはまったく行うことができていない。オンラインツールを使用してのインタビューも、本研究では対象者へのアプローチ自体が困難であるため、選択肢としてとることができなかった。 現地調査に替わる手段として、本研究では資料調査をより深く行うことで、実り多い成果が得られている。このように研究自体はアプローチを変えることで実施できているが、本来の研究課題の中核にあった聞き取り調査が進められていないことは、研究推進上の大きな障壁になっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も、新型コロナウイルス感染症のリスクから現地への渡航は現実的に不可能であると思われるため、資料研究を継続することで研究を進めることが最善の推進方策であると考えている。 ただし資料調査においても、現地においてはじめてアクセスできるアーカイブもあるため、香港浸會大学において歴史学や社会学を専攻する大学院生を雇用し、トウ案館(アーカイブ)や図書館等の資料収集の補助を行ってもらうことを計画している。またこのような調査から得られた資料について、文献にあたって検討を進めるにとどまらず、香港歴史研究を専門とする香港や日本の研究者に照会をおこない、オンラインツールを使って専門的知識の提供を依頼するなど、アプローチを工夫して研究を進めることが必要になると考えている。 また2021年度は最終年度にあたるため、できれば1年間の研究期間延長を申請したいと考えている。新型コロナウイルスのワクチン接種が日本と香港で進んだ場合、2021年度末から2022年度にかけて現地での聞き取り調査を実施することができるのではないかと期待しているためである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に2回にわたって香港に渡航し、現地で聞き取り調査を行う予定だったが、新型コロナウイルス感染症のために渡航制限が行われており、一度も調査を実施できなかった。今後、ワクチン接種が日本と香港で進めば渡航できる可能性があるが、2021年度5月現在では具体的な見込みがないため、資料調査を継続する過程において必要な経費(資料購入、香港での調査協力者の雇用、香港と日本における専門的知識の提供など)に使用することが中心になると考える。ただし渡航が可能になれば2021年度末までに最低1回の現地調査を行いたい。 また2021年度は最終年度であるため、研究期間の1年間の延長を申請し、2022年度に現地調査を実現したいと考えている。
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