研究課題/領域番号 |
19K12606
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 千雅子 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90273200)
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研究分担者 |
三輪 晃司 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (40806147)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トランスジェンダー / インターセックス / アスレティック・アイデンティティ / 公正世界信念 / スポーツ / DSD |
研究実績の概要 |
本研究では、スポーツイベントでのトランスジェンダー・アスリートとインターセックス・アスリートの受け入れに影響を与える要因を定量的に調査した。定量的データは、373人の日本の大学生アスリートから収集された。 分析には混合効果モデルを用い、2種類の予測因子の寄与について、重回帰分析を行った。 1つは、トランスアスリートおよびインターセックス・アスリートが置かれた文脈であり、もう1つは、トランスアスリートとインターセックスアスリートの包摂に対して、シスジェンダー・アスリートの反応に影響を与える可能性のある心理的要因である。分析の結果、トランス男性はトランス女性よりも受け入れられ、ホルモン治療を受けたトランスアスリートは、そうでないトランスアスリートと比べて、より受け入れられると見なされた。また、トランスアスリート、インターセックス・アスリート共に、公式の国内および国際的なスポーツイベントよりも、子供と大人のための非公式のスポーツイベントにおいて、より受け入れられるとみなされた。さらに、アスレティック・アイデンティティが弱い回答者にとって、公正世界に対するより高い信念が、トランスジェンダーの包摂とポジティブに関連していることが明らかになった。より強いアスレティック・アイデンティティは男性回答者のトランスアスリート受容と正の関連があったが、女性回答者では、トランスアスリートの受容と負の関連があった。日本の性的マイノリティ問題を取り巻くさまざまなニュアンスを考慮することにより、本研究は、これまで主に北米と西ヨーロッパの文脈に焦点を当ててきたトランスアスリートおよびインターセックスアスリートの包摂に関する研究に文化的多様性をもたらすものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度には、定量データに基づく分析結果を論文にまとめて発表することができた。令和2年度に投稿したトランスアスリートの包摂に関する論文が、修正を経て国際学術ジャーナルに採用され、令和3年度にオンライン出版をすることができた。さらに令和3年度には、インターセックスアスリートの包摂について、定量データに基づく分析を行い、分析結果を、オンライン開催された国際学会で発表することができた。 コロナ禍のために遅れていた定性調査も徐々に行うことが可能となり、定量データも順調に収集することができている。令和4年度中に追加調和を行う予定であるが、これまでの調査により、理論的飽和に近づいてきているので、定性研究の方も、令和4年度中に論文投稿ができるであろうと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究では、まずは令和3年度にまとめたインターセックス・アスリートの包摂に関する定量データの分析結果を論文にまとめて投稿する。さらに、インタビューとグループディスカションを継続しながら、それによって得られた定性データに対して、構成主義グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づく分析を行う。令和4年度の研究は、本研究のまとめとして、これまでに行った量的研究と質的研究の結果を、多段階デザインに基づく混合研究法でまとめて提示し、「包括と排除のサーキュレーションシステム」のモデルを完成させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、質的調査に遅れが生じた。今年度は、追加の質的調査を行い、それにより得られたデータに対して構成主義グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づいて分析を行う。分析結果を英語論文にまとめ、国際学術ジャーナルに投稿する。研究費は、追加の質的調査のための費用と、投稿論文の英文校正に充てる。
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