研究課題/領域番号 |
19K12608
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
山崎 明子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (30571070)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジェンダー / 手芸 / 再生産 / 規範 / 手作り |
研究実績の概要 |
文献収集及びその読解を中心に研究を進めた。特に、少女向け雑誌や婦人雑誌の中に掲載された手芸関連の記事を読み進め分析することができた。同じく、新聞記事の調査も行うことができ、新聞紙上での手芸家の活動を知ることができた。雑誌・新聞いずれも、一般的メディアでありながらも、手芸愛好者にとって重要な媒体とはされてこなかった。しかし、手芸文化の普及という点から見るならば、これらは欠くことができない媒体だと言える。その中で、これまで手芸雑誌等では見られなかった手芸家の存在を複数確認することができ、戦後の女性手芸家たちの活動の層の複雑性を見出すことが出来たと言える。 また、戦後手芸の中でも一定の領域を占める「ぬいぐるみ」の位置づけについて検討する機会を得られ、集中的にぬいぐるみ文化とジェンダーの問題について調査研究を進めた。現在では購入するものと考えられているぬいぐるみは、高度経済成長期までは家庭で手作りするものであり、作り手と使用者の両方が女性である前提であった。このぬいぐるみとジェンダーに関しては雑誌論稿としてまとめることができた。 さらに、アイヌ刺繍に携わった和人女性デザイナーやアイヌ刺繍の作り手とその展示表象の問題を2本の論稿にし『問いかけるアイヌ・アート』として寄稿した。同じく、手芸文化を多角的に探究し、複数の論稿を『現代手芸考』を出版し、編著者として関わることができた。いずれの書籍も、戦後手仕事のあり方を問い、本研究課題と深く関わるものであるとともに、本研究課題の周辺を固めるために非常に有益なものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外、国内の各種調査ができないため、基本的には文献中心の調査研究に切り替え、その中で一定の成果が出すことができている。特にこれまで重視してこなかった少女・婦人向け総合雑誌の調査をすることで、想定していなかった傾向が見えてきて、作品調査の不足を補えるだけの新たな知見を得ることができた。 また、研究対象は日本に限定しているものの、集中的に英語圏の手芸に関する研究書や図録を参照することができた。それにより、戦後日本の手芸文化のある種の特殊性を確認することができた。特に重点的に調査をしてきたのは、刺繍サンプラーで、その制作プロセスや歴史、教育的効果、デザインなどに注目して文献を読み、作品を見ることができた。欧米では極めて有効な教材とされたサンプラーは、日本ではほぼ重視されておらず、それが一つの日本の手芸文化の特徴とも考えられる。 研究そのものは、当初の予定通りには進められていないが、コロナ禍が長引く中で、良い形で研究スケジュールが調整でき、それによって別の視点から課題にアプローチできている。この変更によって、当初予定とは異なる形ではあるが、最終年度に十分な成果を上げることができるだろうと予想する。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べたように、調査状況の変化によりやむなく研究課題へのアプローチの方法を変更してきた。美術館・博物館調査等には制約があり、また製作者へのインタビューなども限界がある状況である。 しかしながら、文献中心の調査で、扱う文献の枠組みを広げたことにより、新たに現代の手芸文化の一つの層も見えてきたため、本研究課題は、文献調査中心にまとめていくことを検討している。 本研究課題の最終年度であるため、今後はこれまで集めた文献および作品画像等を整理し、まとめていく予定である。また、未収集資料(特に少女雑誌・婦人雑誌・新聞等)についても引き続き収集を続け、できる限り戦後手芸文化の全体像がつかめるようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、出張調査を行うことができなかったため、旅費の支出がなかったために次年度使用額が生じた。年度内に、資料調査中心に方法の検討をしたため、史資料の購入費に振り替えた部分が多い。次年度は調査に行けるようであれば、できるだけ旅費に充てたいが、状況次第だと考えている。
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