本課題は、手作り品が生み出され、人に手渡されるプロセスを歴史的に検証することを目的とし、分析視角としてジェンダー的視点を用い、手仕事をめぐる「生産」と「再生産」の問題を、周辺の言説に着目して明らかにするものである。その前提には、主に女性を主体とする手作り品(手芸的な制作品)の価値のコントロールが通時代的に行われてきたこと、またそのポリティクスは主に言説を通じて行われてきたことがある。分析対象を主に言説に限定したことは、現地調査等を行うことが困難だったこともあった。 本研究では、以下の点から調査研究を行った。第一に、手芸的な手仕事と「内職」の問題が挙げられる。手芸的な手仕事には常に稼ぐ/稼がないという選択肢が用意され、前者は家庭内の趣味としての手芸として広く奨励され、それは決して売らないことを前提としている。それに対して後者は趣味の手芸を遂行する経済的基盤を失った際の稼ぐ手段として奨励されている。特に内職に関する言説の時代による変化は、女性の動員と結びつきコントロールされてきたことを明らかにした。 第二に、稼ぐための手仕事に対して、戦前戦後を通じて趣味の手芸によって社会参画することが求められ、女性たちを無償で奉仕・社会参画させる言説のコントロールについてその政治を明らかにした。 第三に、現在世界的に広がるハンドメイドブームの問題を分析した。現代のハンドメイドブームは、オンライン上で趣味の作品を販売し低価格で手作り品を販売するものが多いが、その奨励言説の中核にあるのは「趣味で稼ぐ」という傾向にある。一方で、稼げる事例は少ないとされる。こうした現状から手仕事の価値づけに大幅な変化はなく、むしろ手仕事の価値を曖昧にさせながら消費のイデオロギーの中に回収するものであったことを明らかにした。
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